Mikura Labor & Social Security Attorney Office

みくら社会保険労務士事務所

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加給年金

   令和6年12月16日

 今年の夏に年金の財政検証が公表されて以降、社会保障審議会(年金部会)において制度改革案が矢継ぎ早に発表されています。とくに11月以降は毎週のように開催されていて、「年収の壁」の問題が年金制度にも波及している印象を受けます。

 

 直近の審議会で議題になっていたのが「加給年金」の取扱いについてです。

 年金相談などで加給年金の制度をわかりやすく説明するときに「年金の家族手当」などと伝えたりしていますが、支給対象者が「配偶者または子」であるところからきています。

 

 老齢厚生年金の場合、以下の条件を満たした受給権者に加給年金額が支給されます。

  • 厚生年金の加入期間が20年以上ある受給権者であること
  • 生計を維持している65歳未満の配偶者または18歳年度末(障害等級1級または2級の場合は20歳)未満の子供がいること

 

 今年度の加給年金額は、次の通りになっています。

  • 配偶者:408,100円(特別加算含む)
  • 子:234,800円(第12子)、78,300円(第3子以降)

 

 改正案として検討されている項目がいくつか出されていますが、注目する内容が3点あります。

 

 ひとつは、第3子以降の子の加算額を平等に同額とするべきではないかという意見です。少子化対策で児童手当などは第3子以降の額を増額しているところから、隣接制度との整合性を保つべきだとする考えがあるようです。

 

 ふたつは、加入期間を10年に短縮する案です。現状の老齢年金の受給資格期間が10年に短縮されたところから連動したほうが良いとの根拠が出されています。

 

 最後は、配偶者加給年金の取扱いです。共働き世帯が増えたことで家族手当的な意味合いの強い加給年金の在り方を見直すべきではないかという提言です。すでに受給している配偶者の支給額は現行の額を保障して、将来の受給権者については加算額を縮小していく内容となっています。

 

 委員からは厚労省案におおむね賛同する意見が多かったものの、子の加算額については、子供が1人増えることによってどのぐらいの割合で給付額を増やすべきなのかは、家計の実態を踏まえて、実証的な研究をしてたうえで、加算ルールを決めたほうがいいのではないか、などの意見が出されています。

 

 年金制度の改正の難しさは、加入期間が数十年単位にわたることと、家族構成が多岐にわたる中で世帯単位と個人単位でみるところのバランスが見出しにくいところにあると感じます。

 

 現場レベルで対応する社会保険労務士としては、個別の事情にどれだけ寄り添って相談に対応できるるかが鍵となるでしょう。

 

 社会保障審議会(年金部会)の詳細は議事内容は厚生労働省のホームページに掲載されています。(第22回 2024123日開催分)

 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126721.html

変形休日制

   令和6年11月18日

 労働基準法では休日について「毎週少なくとも1回」与えなければならないとしています。これが原則的な取り扱いでよく知られたところですが、例外的な取り扱いもあります。「変形休日制」とよばれるもので、同法では「4週間を通じ4日以上の休日を与える」とされています。

 

 4週間で4日以上の休日が確保されていればよいので、極端な場合、1か月(30日)の26日間を連続勤務して最後に4連休とするような働き方が成立することになります。(当然ながら時間外労働の上限規制や割増賃金の支払等の他の法令上の制約は受けます)

 

 この変形休日制の取扱いについて、政府(厚生労働省)は改正を検討しているそうです。報道では14日以上の連続出勤を禁止する上限規制案を検討しているという報道が発表されていました。

 

 週休二日制が当たり前の時代で変形休日制の規制を強化する効果は薄いようにも思えますが、開発や編集の業務など業種によっては変形休日制でないと時季によっては業務が回らないケースもあります。

 

 変形休日制には業種の制約がありませんので、通年的ではなくとも開発の納期や出版物の締め切り間近など繁忙期では案外採用している企業もあるようです。

 

 変形休日制を導入する条件としては就業規則に起算日を定める必要があります。言い換えると44日の休日は、どの週を区切っても4日以上の休日が確保されている必要はないことになります。

 

 シフトの組み方次第で意外と有効な制度だと個人的には感じるところですが、今回の規制強化案が検討されている通り、政府のスタンスとしては週1日休日確保が原則であり、変形休日制は例外的規定である点は認識しておいた方が良いでしょう。

 

 参考までに休日の関連する関連規定を掲載します。

 

【労働基準法】

第三十五条

使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

第2項

前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

 

【労働基準法施行規則】

第十二条の二 略

第2項

使用者は、法第三十五条第二項の規定により労働者に休日を与える場合には、就業規則その他これに準ずるものにおいて、四日以上の休日を与えることとする四週間の起算日を明らかにするものとする。

 

【昭23.9.13基発第17号】

法第三五条関係

() 第一項が原則であり第二項は例外であることを強調し徹底させること。

() 第二項による場合にもできる限り第三二条第二項に準じて一定の定をなさしめるやう指導すること。

介護休業制度

   令和6年10月18日

 来年4月に施行される改正育児介護休業法は、介護休業制度も改正事項が多く含まれているところが従来の改正と一味違うところです。

 

 育介法は少子化対策の本丸的な法律といえるので、育児休業の改正に焦点が当たってきたことは当然ですが、実務的には直近1,2年で介護休業に関するお問い合わせも徐々に増えてきている印象があります。

 

 介護離職やいわゆる「80-50」問題などは、かねてから指摘されていたところで、社会的問題として大きくなってきているということでしょう。

 

 しかし、4月の改正内容において介護休業制度に関する個別周知義務が盛り込まれているように、そもそも介護休業制度は社会的に認知されていない課題を抱えています。

 

 育児介護休業法では「『要介護状態にある家族』を介護する労働者」が介護休業を取得できるとあります。

 

 この「要介護状態にある家族」とは「負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある」以下の家族を指します。

 

・配偶者、子、父母・配偶者の父母、孫、祖父母、兄弟姉妹

 

 たまに質問されるのが、「2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」とはどの程度なのかという点です。

 ひとつは「介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること」という基準があるのですが、要介護認定を受けていない場合も想定して以下の基準も設けられています。

 

 厚生労働省リーフレット「育児介護休業法あらまし」より抜粋

 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000145708.pdf

 

 医師の診断書を提出する要件もなく、計測可能な基準でもないので当事者判断にゆだねられている側面が強いといえます。

 紙面にも「ただし、この基準に厳密に従うことにとらわれて労働者の介護休業の取得が制限されてしまわないように、介護をしている労働者の個々の事情にあわせて、なるべく労働者が仕事と介護を両立できるよう、事業主は柔軟に運用することが望まれます」と記載しているところが、いみじくも判断の難しさを表しているのではないかと思われます。

 

 育児休業と介護休業の違いでよく挙げられるのが社会保険料の取扱いです。育児休業期間中は社会保険料が免除の扱いになりますが、介護休業期間中は社会保険料が発生します。

 

 現行の介護休業期間は最長で3か月(93日間)の範囲内で、対象家族1人について3回まで取得できるとされています。介護休業期間中の社会保険料が免除対象外であるのは期間の短さにあると巷間で囁かれたものですが、現行の育児休業制度が14日以上の休業から社会保険料の免除対象となっていることと比較すると説得力に欠ける感があります。

 

 強いて考えれば、介護休業は(例えば数日単位で)小間切れで取得したり、突発的に休業が開始されるケースなどがあるため社会保険料を免除にした場合の管理が難しいのではないかと想像されます。

 

 今回の改正でもこの部分は持ち越しとなったため、介護休業期間中の社会保険料の徴収方法を労使間で詰める作業は引き続き必要となります。この対応も悩ましいところです。

 

 介護休業制度の概要と法改正の内容については、厚生労働省に関連サイトにもアップされています。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/

遺族年金制度の見直しについて

   令和6年9月17日

 令和6年度の財政検証を受けて、厚生労働省の社会保障審議会では公的年金制度の見直しを検討しています。

 

 7月に行われた年金部会では、とくに遺族年金制度の具体的見直し案がいくつか出されています。【資料4遺族年金制度等の見直しについて】

 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20240730.html

 

 20代~50代の子のいない配偶者に対する遺族厚生年金について、5年間の有期年金とすること、年齢要件の男女間格差をなくすこと、などが検討事項として挙げられています。

 

 現行制度では、30歳未満の子のいない配偶者については遺族厚生年金は5年間の有期年金になっていますが、これを30歳以上の子のない配偶者にも対象拡大しようとするものです。また妻が死亡した場合、夫が遺族厚生年金の受給権者である場合には年齢要件(55歳以上であること、支給は60歳から)がありますが、この要件を撤廃する案も提言されています。

 

 検討案が出された背景には、共働き世帯の増加や女性の就業増加など社会状況の変化と性別や家庭環境による年金格差の解消があるとしていますが、改正する場合には、激変緩和措置を盛り込むべきだとする内容も盛り込まれています。

 

 例えば有期年金化を行う場合の措置として、生計維持要件のひとつである年収要件(850万円未満)を撤廃することや、死亡時点で婚姻期間中にかかる配偶者の標準報酬を老後の年金に加算する「死亡時分割」制度の導入などです。

 

 もうひとつの性別や家庭環境による年金格差の解消では、中高齢寡婦加算及び国民年金の寡婦年金制度の段階的廃止、子供に対する遺族基礎年金の支給停止規定の見直しの内容が出されています。

 

 なお、子がいる配偶者に対する遺族厚生年金や高齢期の夫婦の一方が死亡した場合における遺族厚生年金、すでに受給している遺族厚生年金については現行制度を維持することが確認されています。

 

 公的年金制度における障害年金や遺族年金は福祉的役割が強いとして、しばしば縮小や廃止(社会保険ではなく税による公的負担)が唱えられてきました。今回は具体案をだして踏み込んできたところが、従来までとは一線を画している印象があります。

  

 あくまで検討段階で具体的な改正スケジュールは現時点では未定ですが、今後の進捗を注視していきたいところです。

同一労働同一賃金の再労使協定

   令和6年8月19日

 厚生労働省は、派遣労働者の同一労働同一賃金にかかる労使協定方式について、協定に用いる地域指数に訂正があった旨を公表しています。

 

 訂正があったのは、地域指数のうちハローワーク別の地域指数です。労使協定方式を採用していて、地域指数がハローワークの指数を用いている場合には、930日までに再協定を締結したうえで賃金を改訂する対応が必要になる可能性があります。

 

 ハローワークの指数を採用しているすべての事業所が対象になるわけではないので、厚生労働省の下記サイトより、再協定が必要であるかどうかを確認すると良いでしょう。

  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

 

 今回の指数訂正にともなうQ&A集もあわせて公表されています。なかでもポイントになりそうなところとして、協定を再締結した場合に経過した協定期間中に係る差額賃金分を支払う義務があるかどうかというところですが、次のように提示されています。

 

()この度の厚生労働省の通達におけるハローワーク別地域指数の算定誤り及びその訂正を受けた労使協定の改定については、派遣元事業主の方に過失や責任があって行っていただくものではありません。改定前の期間については、その期間について有効な労使協定(現行協定)に拠ることになり、新協定の水準を年度当初に遡って適用することを義務とするものではありませんが、厚生労働省としては、今般の算定誤りがなければ年度当初から新協定の水準で協定が成立していた見通しや、労働の対価としての賃金の性質及び重要性を踏まえ、この期間における新協定と現行協定との差を補うことについて、労使の話し合いにおいて検討していただくようお願いをしています。(後略)」

 

 今年は、物価高対応で中小企業を中心に夏の賞与を前倒しして支給しているところが多いと聞きますが、差額調整を図るとなると、そちらへの問題にも波及しそうで労使協議も難航しそうな気配があります。

 

 協定再締結については、同じく厚労省のリーフレットに簡単なチャートが掲載されていますので、あわせてご参照ください。

 https://www.mhlw.go.jp/content/001282172.pdf

令和6年の財政検証

   令和6年7月16日

 厚生労働省は7月3日、5年に一度の財政検証が公表されました。公的年金の財政検証は平成16年の年金改正の時に導入された制度で、経済や人口、社会状況をふまえて公的年金の現状と将来推計を分析する作業で「年金制度の健康診断」と呼ばれています。

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html

 

 平成16年までは財政再計算というかたちで5年ごとに年金制度のメンテナンスを行っていました。制度の基本的な枠組みはあまり変わってないようにも見えるのですが、財政検証の特徴は2つあります。ひとつは、現役世代の収入に対する年金給付の水準「所得代替率」の公表です。

 

 根拠としては国民年金法の次の規定があります。

 

(財政の現況及び見通しの作成)

第4条の3 政府は、少なくとも5年ごとに、保険料及び国庫負担の額並びにこの法律による給付に要する費用の額その他の国民年金事業の財政に係る収支についてその現況及び財政均衡期間における見通し(以下「財政の現況及び見通し」という。)を作成しなければならない。

2 前項の財政均衡期間(第十六条の二第一項において「財政均衡期間」という。)は、財政の現況及び見通しが作成される年以降おおむね百年間とする。

3 政府は、第一項の規定により財政の現況及び見通しを作成したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。(平一六法一〇四・追加)

 

 第2項の「おおむね百年間」という文言が、当時「100年安心」というフレーズとして何かと独り歩きして広まりました。財政再計算は、給付水準を維持するために保険料水準をどの程度改めていくかという点に軸足がありました。一方、財政検証は、給付水準の下限を設定したうえで給付と負担のバランスを考慮するという考え方を取っています。そして給付水準の下限は、所得代替率の50%としています。

 

 同様に、国民年金法に次の規定があります。

 

附則(平成一六年六月一一日法律第一〇四号)抄

(給付水準の下限)

第2条 国民年金法による年金たる給付及び厚生年金保険法による年金たる保険給付については、第一号に掲げる額と第二号に掲げる額とを合算して得た額の第三号に掲げる額に対する比率が百分の五十を上回ることとなるような給付水準を将来にわたり確保するものとする。

  

 財政検証のもう一つの特徴は、オプション試算というデータを公表するようになった点です。公的年金の所得代替率の向上を図るために行う改正がどの程度の効果が見込めるかを分析したものです。

 

 オプション試算で提示された改正内容が必ず改正されるわけではなく、逆に提示されていない項目でも改正される事項は存在します。ただ、少なくとも政府が有効な対策であることを認識している項目であるため、オプション試算の項目は有力な改正事項ということで注目を集める試算です。

 

 今回の財政検証でも4つのオプション試算がしめされました。報道で注目を集めたのが基礎年金拠出期間の延長でしたが、当面の改正は見送る方向になるようです。

  財政検証の内容を検証する手段のひとつとして、前回の財政検証と比較する方法があります。5年前にもHPで採りあげていましたので、参考サイトとあわせてご参照ください。

 https://www.mikura-sr.com/15669697734238

 

 厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」

 https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/

雇用保険法の改正

   令和6年6月18日

 先月、雇用保険法の一部改正案が成立しました。実務上影響がある項目を中心に取り上げていくと次の改正項目が挙げられます。

 

  1. 雇用保険の適用拡大(令和10年10月1日施行)

     現在、雇用保険の加入基準は1週の勤務時間が「20時間以上」となっていますが、これが「10時間以上」に拡大されます。総務省の推計では、この改正によって約500万人の被保険者があらたに加入対象となる見込みです。
     この改正にあわせて、失業保険(基本手当)の賃金支払基礎日数が「11日以上または80時間以上」から「6日以上または40時間以上」に変更されます。


     
  2. 給付制限期間の短縮(令和7年4月1日施行)

     基本手当を受給する際に、自己都合による退職の場合、現行制度では2か月間の給付制限期間が設けられていますが、これを1か月間に短縮されます。この短縮規定は、直近5年間で2回までとし、3回目以上の自己都合離職の場合には給付制限期間を3か月とされます。

     
  3. 育児休業給付の財政基盤強化

     育児休業給付に係る受給費用の急増を受けて、令和6年度から国庫負担の割合を1/80から1/8に増額されます。もともと国庫負担は1/8であるところを暫定措置として1/80としてきましたが、本則の負担率とする改正です。(公布日施行)
     さらに男性の育児休業の取得率向上を目指すことによって、育児休業給付に係る費用が増えることを想定して、保険料率を現行の0.4%から0.5%に引き上げる改正も予定されています。(令和7年4月1日施行)

 

 その他の改正メニューの詳細は厚生労働省のこちらのサイトで公開されていますので、ご参照ください。

 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40264.html

 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001255172.pdf

 

 雇用保険に先んじて、社会保険も10月より適用拡大が予定されています。セーフティーネットから零れ落ちる雇用者を減らす効果を期待したい一方で、給付が低額かつ細切れになることによって失業保険制度の本来の機能が果たされるのかが若干気にかかります。

 

 遡れば年金制度にもかつて無年金問題が課題になっていた時代があり、平成29年に受給資格期間が短縮されたことでほぼ解消されたのですが、新たに低年金の問題がでてきました。

 制度の趣旨に沿いながら実効性のある改正も満たすことは難しい課題だと感じます。

マイナ保険証利用促進集中取組月間

   令和6年5月15日

 今月より7月までの3か月間、政府は「マイナ保険証利用促進集中取組月間」として、年末の健康保険証の廃止とマイナンバーカード保険証(マイナ保険証)への移行を目指した取り組みを強化しています。

 https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001248133.pdf

 

 取組強化の背景には、低迷し続ける利用率があげられます。直近の統計によると3月末時点のマイナ保険証の利用率は5.47%に留まっています。

 

 取組強化の対策としては、病院や診療所、薬局に対して、マイナ保険証の利用実績に応じて一時金を支給する方針を打ち出しています。

 

 利用率の低迷をめぐっては、旗振り役の公務員(共済組合)も同様の状況が続いており(5.73%)、利用率向上策の一環としてか4月より共済組合の年金請求においては、マイナンバーの記載が義務付けられています。

 この改正にともない年金請求書の様式も4月より変更になっていて、マイナンバーの独自記載欄が設けられるになっています。

 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/rourei/seikyu/kinyu.html#cms012

 

 ただし記載義務化は共済組合のみで共済以外の年金請求手続については、現時点では任意の取扱いになっています。

 

 上記の統計資料では4人に1人がマイナ保険証を利用したことがあり、4割が常時携帯していると回答しています。医療機関の設備環境が整えば利用率が上がるという想定のもと、今回の普及策が推進されているようです。

 

 医療機関を問わず、マイナンバーカードの利用率向上には社会インフラの整備が不可欠なわけですが、便利さを追求するということは、ときにセキュリティを犠牲にしてしまいかねない矛盾を抱えます。

 

 マイナンバーが抱える、この二律背反の課題を解消する法整備やシステムが構築されれば、加速度的に利用が浸透していくように思われます。

 

 マイナ保険証に関連するサイトは、以下よりご確認できます。

  • マイナポータル

 https://myna.go.jp/html/hokenshoriyou_top.html

  • デジタル庁

 https://www.digital.go.jp/policies/mynumber/insurance-card

  • 厚生労働省

 https://www.mhlw.go.jp/stf/index_16743.html

 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22682.html

 

子ども・子育て拠出金

   令和6年4月15日

 子ども・子育て拠出金は、かつて児童手当拠出金という名称でしたが、平成27年に「子ども・子育て支援法」が施行されたことによって現在の名称になりました。

 

 その子ども・子育て支援法の一部を改正する法案が今国会で審議されています。

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ba94b64b-731f-4f48-97ba-b54a76b0aeb6/a528abca/20240216_councils_shienkin-daijinkonwakai_03.pdf

 

 子ども・子育て拠出金の掛金率は現在0.36%ですが、掛金率は制度発足以来上昇を続けてきています。

 

  • 平成27年度:0.15%
  • 平成28年度:0.2%
  • 平成29年度:0.23%
  • 平成30年度:0.29%
  • 平成31年度:0.34%
  • 令和2年度:0.36%

 

 子ども・子育て拠出金の掛金については子ども・子育て支援法で次のように定められています。

 

(拠出金の徴収及び納付義務)

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政府は、児童手当の支給に要する費用(児童手当法第十八条第一項に規定するものに限る。次条第二項において「拠出金対象児童手当費用」という。)、第六十五条の規定により市町村が支弁する同条第二号に掲げる費用(施設型給付費等負担対象額のうち、満三歳未満保育認定子どもに係るものに相当する費用に限る。次条第二項において「拠出金対象施設型給付費等費用」という。)、地域子ども・子育て支援事業(第五十九条第二号、第五号 及び第十一号に掲げるものに限る。)に要する費用(次条第二項において「拠出金対象地域 子ども・子育て支援事業費用」という。)及び仕事・子育て両立支援事業に要する費用(同項において「仕事・子育て両立支援事業費用」という。)に充てるため、次に掲げる者(次項において「一般事業主」という。)から拠出金を徴収する。

一 厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第八十二条第一項

二~四(略)

2 一般事業主は、拠出金を納付する義務を負う。

 

 そして掛金額の計算と掛金率の上限については、次のように定められています。

(拠出金の額)

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拠出金の額は、厚生年金保険法に基づく保険料の計算の基礎となる標準報酬月額及び標準賞与額(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平 成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業若しくは同法第二十三条第二項の 育児休業に関する制度に準ずる措置若しくは同法第二十四条第一項(第二号に係る部分に限 る。)の規定により同項第二号に規定する育児休業に関する制度に準じて講ずる措置による休業、国会職員の育児休業等に関する法律(平成三年法律第百八号)第三条第一項に規定する育児休業、国家公務員の育児休業等に関する法律(平成三年法律第百九号)第三条第一項(同法第二十七条第一項及び裁判所職員臨時措置法(昭和二十六年法律第二百九十九号) (第七号に係る部分に限る。)において準用する場合を含む。)に規定する育児休業若しく は地方公務員の育児休業等に関する法律(平成三年法律第百十号)第二条第一項に規定する 育児休業又は厚生年金保険法第二十三条の三第一項に規定する産前産後休業をしている被用者について、当該育児休業若しくは休業又は当該産前産後休業をしたことにより、厚生年金保険法に基づき保険料の徴収を行わないこととされた場合にあっては、当該被用者に係るものを除く。次項において「賦課標準」という。)に拠出金率を乗じて得た額の総額とする。

2 前項の拠出金率は、拠出金対象児童手当費用、拠出金対象施設型給付費等費用及び拠出金対 象地域子ども・子育て支援事業費用の予想総額並びに仕事・子育て両立支援事業費用の予定額、賦課標準の予想総額並びに第六十八条第一項の規定により国が負担する額(満三歳未満 保育認定子どもに係るものに限る。)、同条第三項の規定により国が交付する額及び児童手 当法第十八条第一項の規定により国庫が負担する額等の予想総額に照らし、おおむね五年を通じ財政の均衡を保つことができるものでなければならないものとし、千分の四・五以内において、政令で定める。

 

 この規定に基づいて、現在の掛金率が政令で次のように定められています。(なお改正法案では上限率が4.0/1000と改められています)

 

子ども・子育て支援法施行令(平成26613日政令第213号)

(法第70条第2項の政令で定める拠出金率)

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法第七十条第二項の拠出金率は、千分の三・六とする。

 

 子ども・子育て拠出金は、毎月の社会保険料納付とあわせて年金事務所から請求が来ているので陰に隠れている印象があります。料率も他の保険料と比べれば低いので、あまり気がつきにくい存在です。しかも全額事業主負担であるため一般の従業員(被保険者)には馴染みが薄いといえるでしょう。

 

 昨今、子ども・子育て支援金の話題で持ちきりですが、これを機に拠出金にも関心が集まって費用負担や徴収方法などのあり方そのものにも深堀されることが待たれます。

 

 改正法案の全文は、こども家庭庁のサイトに掲載されています。

 https://www.cfa.go.jp/laws/houan/e81845c0

戸籍法の改正

  令和6年3月14日

 3月1日より戸籍法が改正され「広域交付制度」が始まっています。本籍地以外の自治体でも発行できるようになり、最寄りの市区町村から取り寄せること可能となります。

 

 相続の際などで、相続人の戸籍謄本を全国各地から取り寄せなければならなかったものが、一か所の市区町村からまとめて発行することもできるようになるめ利便性向上が実現されます。ただし、一部事項証明書や個別事項証明書は請求できません。

 

 また今後の予定としてマイナンバーとの連携によって戸籍の届出における戸籍謄抄本の添付が省略されるようにもなります。

  例えば公的年金の請求を行うときに、配偶者がいる場合には戸籍謄本の添付が必要であるため、わざわざ本籍地の自治体より取り寄せていました。3月より日本年金機構からデジタル庁や法務省への情報照会の試行運用が開始されていて、本格運用の段階になれば戸籍謄本の添付も省略されるようになります。

 

 年金請求では、いわゆる3点セットと呼ばれる「戸籍謄本」「住民票」「所得証明書」の添付が必須でした。マイナンバーとの連携で住民票と所得証明書の省略は、すでに実現されていましたが戸籍謄本は引き続き添付が必要でした。情報照会が本格化されれば3点セットのすべてが添付省略の取り扱いとなります。

 

 年金請求における添付省略は、令和以降徐々に実現されています。

  • 令和元年7月:日本年金機構から地方自治体への年金給付関係の情報照会の開始(所得証明書の省略)
  • 令和4年10月:日本年金機構からデジタル庁へのマイナンバーと公的給付等口座情報の取得開始(預金通帳の写し等の省略)

 

 戸籍謄本の省略は年金請求時だけでなく、児童扶養手当や健康保険の被扶養者届など他の社会保障関係の手続で身分関係を証明する必要がある場合のときも省略が可能となる予定です。

 

 戸籍法の一部改正の内容は法務省のホームページにも掲載されています。

 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html

専門業務型裁量労働制の改正

  令和6年2月16日

 4月から改正される専門業務型裁量労働制で眼目とされるのが、本人の同意が要件として追加されることです。

 

 労使協定の記載事項としても追加されるところから、改正施行日までに労使協定を締結する必要があります。

 素朴な疑問として、本人の同意をどのタイミングでとればよいのか、という点があります。

  厚生労働省から公表されている「裁量労働制Q&A」には、同意の撤回のタイミングについての記載があります。(Q1-7

 

Q

労使協定又は決議において同意の撤回の手続を定める際、同意の撤回を申し出るタイミングを指定することは可能か。

 

A

基本的に同意の撤回は労働者の任意の時期に申出を行うことを可能とし、その時点から適用が解除されるようにすることが適切であるが、労使協定や決議において、同意の撤回の手続について、 例えば「適用解除予定日の日前までに同意の撤回を申し出る必要がある」等の定めをすることは可能である。 その場合において、労働者の同意の撤回を踏まえた労務管理上の手続きにおいて一定の期間が必要な場合も考えられるが、必要以上に長い期間を設定することは、実質的に労働者の同意の撤回を認めていないこととなり、不適当である。

 

 この考え方に倣えば、「同意の撤回」の部分を「同意」と読み替えれば、そのまま運用できると思いたいところですが、実際はそうはいかなさそうです。

 

 同意を得るタイミングは、時系列的には次の3時点が考えられます。

 ① 労使協定の締結前

 労使協定を締結後から届出前

 労使協定の届出完了後から有効期間の初日前

 

 同じ厚生労働省から出されている以下の手引書では、③の時点でとることを想定しているようです。

 https://www.mhlw.go.jp/content/001166653.pdf

 

 普通に考えれば、締結されていない労使協定(案のような状態)の内容で同意が得られたとしても、その後に締結された労使協定の内容に変更が生じた場合、再度同意を得なければならないことになります。

 

 上記手引書に掲載されている裁量労働制対象者に対する説明書や同意書のひな型を観ても、やはり締結された労使協定について同意する構成になっています。

 

 しかし実務面に着目した場合には、労使協定の締結前に同意を得たほうが合理的なのではないかという気がしています。

 個別の同意を得た労使協定(案)であれば労使代表者の合意形成もスムーズにいくように思われます。言い換えると労使協定が締結された後に個別の同意が得られなければ民主的プロセスで選出された労働者代表としての立場にも疑問符がついてしまうことになりかねません。

 

 裁量労働制の対象労働者が多数になる場合、協定の締結後に同意を求めなければならないとなると、有効期間までに全員の同意が取れるのかという時間的問題にも直面しそうです。

 

 改正法の精神としては、実質的な同意が担保されていることを重視しているのだとは思いますが、色々調べたり考えたりしていると気になる点ではあります。

同一月内の複数回賞与

  令和6年1月18日

 年末年始や年度末では、決算賞与など臨時の賞与が支払われることがあります。同じ月に通常の賞与も支払われると、同一月に2回以上賞与が支払われることになります。

 

 賞与から源泉控除される社会保険料には上限額があり、健康保険料と介護保険料は1年度(4月~翌年3月)あたりで573万円と決められています。かたや厚生年金保険料は1か月あたりで150万円と設定されています。

 

 同一月内で複数回の賞与が支払われる場合、厚生年金保険料の上限に到達することがしばしば起こります。月の最初の賞与額で上限額を超えているのであれば、2回目以降の賞与には厚生年金保険料が発生しないため計算はシンプルです。

 一方、2回目以降の賞与額で上限額を超える場合や、同一月内の複数回の賞与合計額が上限額に達しない場合は、給与計算時に調整が必要です。

 

 賞与から控除する社会保険料は標準賞与額をもとに算出されます。標準賞与額は1,000円未満の端数を切り捨てた額とされていますが、同じ月に賞与が2回以上支払われた場合、その合計額に対して1,000円未満を切り捨てた額が標準賞与額となります。

 

 そこで問題になるのが賞与から控除する社会保険料ですが、1回目の支給時点では2回目の賞与額が確定していないケースの場合、1回目の計算では原則通りの標準賞与額をもとに社会保険料を控除するしかありません。そして2回目の賞与計算時で最終的な標準賞与額から1回目の賞与で控除した保険料との差額を控除する計算となります。

 

 例えば、上のケースで厚生年金保険料を例に挙げると次のようになります。

(例1)1回目賞与額:400,500円、2回目賞与額:500,500円(標準賞与額:901千円)

  • 1回目厚生年金保険料:36,600円
  • 2回目厚生年金保険料:45,841円(901千円×9.15%-36,600円)

(例2)1回目賞与額:500,500円、2回目賞与額:999,600円(標準賞与額:1,500千円)

  • 1回目厚生年金保険料:45,750円
  • 2回目厚生年金保険料:91,500円(1,500千円×9.15%-45,750円)

 

 なお、子ども子育て拠出金も標準賞与額の上限は1か月あたり150万円となりますが、全額会社負担のため、上記のような給与計算時の調整は起こりません。