Mikura Labor & Social Security Attorney Office

みくら社会保険労務士事務所

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社会保険の同日得喪

 令和4年12月5日

 年の途中で賃金が変わり社会保険料が変更される(標準報酬が変更される)場合には、「月額変更届」の取扱いになります。

 略して「月変(げっぺん)」といいますが、変更してから3か月平均の金額で新しい等級に改定されるため、その間は、支給される賃金と源泉控除される社会保険料が乖離します。

 

 この弊害をなくすために認められているのが「同日得喪」と呼ばれる手続です。

 同日得喪は、いったん被保険者資格を喪失する手続を行い、同じ日付で取得手続を行うことをいいます。

 同日得喪ができれば、賃金が変更した月から標準報酬も変更されるため給与と社会保険料が同時期に均衡します。

 

 しかし、すべてのケースで同日得喪が認められるわけではありません。

 同日得喪の改正は平成22年と平成25年に行われましたが、それぞれの改正は趣旨が異なっていました。

 

 もともとは「定年退職」したときのみ同日得喪が可能でした。定年制がない会社や、それ以外の理由で賃金額が変わった場合には、同日得喪ができませんでした。

 賃金が下がった場合でも、数か月間は高い標準報酬をもとに年金額の調整(在職老齢年金)が行われていました。

 

 平成22年改正によって、「60歳~64歳」で「年金の受給権」を有する人であれば、定年以外の理由による場合でも、同日得喪が認められるようになりました。

 

 一方、平成25年改正は、60歳代前半の老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)の支給開始年齢が段階的に引き上がり始めた時代を迎えて改正されたものです。

 嘱託契約が更新されて賃金も変更した時点で年金の受給権を持たないケースがでてきました。

 在職老齢年金の問題が減っていく一方で文頭の問題がクローズアップされていったことで、年金の受給権がなくても「60歳以上」であれば同日得喪を認める取り扱いに拡大されました。

 

 こう見ると、平成22年改正は在職老齢年金対策であり、平成25年改正は保険料対策に主眼が置かれたと解されます。

 

 そうであれば、現行の年齢制限を設定している根拠も、今後は薄れていくように感じます。60歳未満でも正規労働者⇔非正規労働者間で労働条件が根本的に変わるケースでは労働契約の再締結が行われますが、社会保険上は通常の月変の扱いです。

 

 年金の支給が一律65歳になる時代まで10年を切り始めた現状で、同一労働同一賃金の考え方が浸透していく中では、同日得喪の定義も再設定を求められているのではないかと感じます。

 

 日本年金機構のサイト(Q&A)集にも、同日得喪に関する内容が掲載されています。

 年金Q&A (その他(嘱託として再雇用された者の被保険者資格の取扱い))|日本年金機構 (nenkin.go.jp)

被扶養者認定の調査

 令和4年11月15日

 毎年この季節は健康保険の被扶養者認定調査の時期にあたります。

 

 全国健康保険協会(協会けんぽ)管轄の会社の場合「被扶養者状況リスト」と呼ばれる書類が届きます。そこには、現状対象になっている被扶養者の一覧が記載されています。

 日本年金機構や協会けんぽでは、マイナンバーによって被扶養者の収入状況を把握できているようで、リストに載っている被扶養者について収入要件に疑義がある親族には、確認を求める表示があります。

 

 収入がある被扶養者の場合、被保険者と同居しているか、別居しているかで、別の認定基準が設定されています。

 

【収入がある者についての被扶養者の認定について】

 -昭和五二年四月六日保発第九号・庁保発第九号(抜粋)-

  • 同居の場合 1-1
    認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合
  •  別居の場合 2
    認定対象者の年間収入が130万円未満(同上により略)であって、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合

 

 別居の場合は同封の「現況申立書」によって収入状況や仕送額などを証明書類とあわせて提出することになります。

 

 令和24月より国内居住要件が追加されていますが、海外特例要件に該当する被扶養者であれば、同様に現況報告をすることになります。

 

 今年は、10月から短時間労働者の社会保険が適用拡大されたことで、対象被扶養者が勤務先の社会保険にも加入対象になるケースが生じています。

 本人に選択権はなく、働き方を変えられないなら社会保険は強制加入となるため、被扶養者の資格を失うことになります。

 

 ところで上記の通達には続きがあります。

 

  • 同居の場合 1-(2)
    (同居の認定基準の)条件に該当しない場合であっても、当該認定対象者の年間収入が130万円未満(同上により略)であって、かつ、被保険者の年間収入を上廻らない場合には、当該世帯の生計の状況を総合的に勘案して、当該被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときは、被扶養者に該当するものとして差し支えない

 

 この通達は社会保険労務士であれば誰もが知る有名な通達であるがゆえに、年収条件において「130万円未満」という数字とあわせて「同居の場合は被保険者の半分以下」という説明をしがちです。しかし、被扶養者の収入が被保険者の収入の2分の1以上でも、被保険者の収入を上回らなければ、認定される余地があることを示しています。

 

 さらに同通達には”3があり、「前記1及び2により被扶養者の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなると認められる場合には、その具体的事情に照らし最も妥当と認められる認定を行うものとすること」と続きます。

 具体的な事例がすぐには思いつきませんが、別居している被扶養者が他人とルームシェア等をしている場合などでしょうか。

  

 被扶養者の認定基準は、協会けんぽのホームページにも掲載されています。

 被扶養者とは? | こんな時に健保 | 全国健康保険協会 (kyoukaikenpo.or.jp) 

労働基準監督署の調査

 令和4年10月18日

 コロナ禍で自粛していたわけではないと思いますが、夏ごろから労働基準監督署(労基署)の是正調査に関する相談が重なりました。

 

 労基署が行う調査は、おもに最低賃金や割増賃金などの賃金に関する内容、各種労働時間制度や36協定など労働時間に関する内容に集中する傾向があります。

 あわせて、年次有給休暇や健康診断、安全衛生に関する事項を周辺的に調査することが多く見受けられます。

 

 是正内容が確認された場合には、期限を区切ったうえで改善が勧告されますが、労基署が発する書面にはいくつか種類があります。

 

 いちばんポピュラーなのが「是正勧告書」と呼ばれるものです。これは労働基準法に違反している状態が確認された場合に交付される書面です。最低賃金を下回る時給単価で支払っていたり、法定労働時間を超えて労働しているにもかかわらず36協定届が提出されていないといったケースです。

 

 是正勧告書で指摘された事項については、すでに法令違反の状態になっているので可能な限り速やかに対応する必要があります。

 

 最近では是正勧告書も細分化されており、通常の勧告書とは別に「時間外労働・休日労働削減に係る是正勧告書」という書面が交付されることが増えています。働き方改革の大きな目標である長時間労働の削減について行政が力を入れているという意思の表れと捉えるべきでしょう。

 

 是正勧告書とは別に「指導票」と呼ばれる書面が交付されることもあります。こちらは明確に労働法令に違反しているとまでは言えないものの、行政通達や指針に照らして不適切な状態になっているため改善を求める内容です。

 

 さらに最近目立つのは「過重労働による健康障害の防止について」と呼ばれる勧告書です。こちらも長時間労働に対する是正項目が多く、医師の面談や長時間労働削減の対応策を求める内容が網羅されています。

 個人的な印象では特に裁量労働制が適用されている労働者について細かくチェックしているように思われます。

 

 いちどの調査で複数の勧告書が交付されることもザラで、会社としてはどの項目から対応していけばよいかわかりにくいというご相談も受けます。一概に説明できるものでもないため、是正内容を確認したうえで個々のケースごとに優先順位を検討します。

 

 長年疑問を感じることなく慣習的に行ってきたことが違反事項だったという場面にも遭遇します。職場環境を改善して、労使慣行を改めるきっかけと捉えると良いのではないでしょうか。

 

 是正勧告についてどこか参考になりそうなところはないかと探してみたところ、地方の労働局がいつくか様式を公開していました。

 

 【岡山労働局】

 https://jsite.mhlw.go.jp/okayama-roudoukyoku/newpage_00738.html

【富山労働局】

 労働基準監督署へ提出する報告書について|富山労働局 (mhlw.go.jp)

保険料の納付証明

 令和4年9月16日

 会社が、国の補助金(助成金)制度や民間の金融機関から融資を受ける場合などでは、その多くが「公租公課」を滞納していないことを条件にしています。

 

 公租公課には労働保険料(労災保険料&雇用保険料)や社会保険料(健康保険料&厚生年金保険料)も含まれます。

 

 銀行振込であれば銀行窓口で納付した後に領収書が交付されます。

 口座振替の場合、保険料が自動振替される前後に各行政機関から引落額の明細と領収書を兼ねた通知書が送付されるのが一般的です。

 

 名称はそれぞれ異なりますが、例えば社会保険料の場合、年金事務所から「保険料納入通知書・領収済通知書」といったかたちで郵送されます。

 健康保険組合に加入している会社であれば、健保組合と年金事務所双方から送られます。

 労働保険料についても同様に口座振替の結果の通知が届きます。

 

 これらの通知書が手元にあれば証明書の代わりになりうるわけですが、紛失等をしてしまった場合や行政機関が正式に発行した証明書を求められることがあります。

 そんな場合に、保険料納付証明書を発行する手続きがあります。

 

 保険料納付証明には簡易版と詳細版があり、簡易版は単に未納であることを証明するもので、詳細版は納入日や納付した保険料額が記載されます。

 遡及分を証明して発行することも可能ですが、通常は保険料の時効(2年)に設定しているケースが多いようです。

 

 保険料納付証明は、冒頭の目的以外でも特定技能外国人を受け入れる企業が出入国在留管理庁より提出を求められるケースもありますので、活用されると良いでしょう。

 

 関係機関のサイトにも発行申請の詳細が掲載されています。

 

【日本年金機構】

 納入証明書・納入確認書|日本年金機構 (nenkin.go.jp)

 

 「特定技能」にかかる社会保険関係書類の交付|日本年金機構 (nenkin.go.jp)

 

【東京労働局】

 労働保険料等納入証明について | 東京労働局 (mhlw.go.jp)

年金の源泉控除

 令和4年8月24日

 公的年金(老齢年金)は、税法上は「雑所得」に分類され、税金や社会保険料が発生します。(障害年金と遺族年金は非課税です)

 切り替わるタイミングがそれぞれ異なり、制度の仕組みが分かりにくいところがあります。年齢や年金額によっては源泉控除されないものもあります。

 説明書き風に列挙すると次のようになります。

 

所得税】

65歳未満の場合は108万円以上、65歳以上の場合は158万円以上の年金受給者から源泉所得税を控除されます。毎年8月~9月ごろに対象者に「扶養控除等異動申告書」を発送して扶養親族等の状況を確認して、翌年の2月支給の年金から税額が更新されます。平成25年から25年間は、「復興特別所得税」が加算されます。

https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/fuyoushinkoku.html

 

【住民税】
65歳未満の場合は105万円以上、65歳以上の場合は155万円以上の年金受給者には住民税が発生します。65歳以上の受給者が源泉控除の対象となります。控除される額は、年金所得に対する住民税額のみとなります。10月支給の年金から税額が更新されます。

 

【国民健康保険料】

同一世帯の国民健康保険の加入者全員が65歳以上75歳未満の場合に、世帯主の年金から国民健康保険料が源泉控除されます。保険料額は10月支給の年金から保険料額が更新されます。年金額が18万円以上で、国保料と介護保険料の合計額が年金額の2分の1以下になる人が源泉控除の対象となります。

 

【介護保険料】

65歳以上の年金受給者で金額が18万円以上で、国保料と介護保険料の合計額が年金額の2分の1以下になる人が源泉控除の対象となります。保険料額は10月支給の年金から保険料額が更新されます。

 

【後期高齢者医療保険料】

75歳以上になると、医療保険は後期高齢者医療制度へ移行します。保険料は個人単位で源泉控除されます。保険料額は10月支給の年金から保険料額が更新されます。

 

 所得税は2月、それ以外は10月支給の年金から金額が切り替わることになります。

 

 年金は4月~3月の年度単位でサイクルするため、4月支給の年金から切り替えればシンプルなのですが、住民税と社会保険料の新年度額が確定するのが5月~6月頃になるため、事務処理のタイミング上、10月支給を新年度額の切り替え時期としています。

 

 こうした事情から4月・6月・8月に支給される年金からは暫定的な税・保険料額を天引きし、10月・12月・2月支給の年金からは新年度の確定した税・社会保険料額を正式に控除しています。

 前者を「仮徴収」といい、後者を「本徴収」といいます。

 

 ところが、以前は「仮徴収は前年度の本徴収の額を超えてはならない」という決まりがありました。

 そうため、仮徴収から本徴収に更新される10月支給時に新年度の住民税や保険料が大きく増額されたときに、年金手取額がその分減少する課題が指摘されていました。

 

 そこで、とくに少子高齢化の影響を受けやすい介護保険料について改正が行われたことで、10月を待たずに介護保険料を新年度額に更新することが可能になり、保険料の平準化がある程度実現されました。

 しかし、10月から変わると思っているところに、8月の年金から保険料変更の通知書が届いたりすることがあるため、受給者からすると疑問を抱くこともあるようです。

 

 介護保険法の該当条文を下記に掲載します。

 【介護保険法第140条】

  1. 市町村は、前項に規定する第一号被保険者について、当該年度の初日の属する年の6月1日から9月30日までの間において同項に規定する老齢等年金給付が支払われるときは、それぞれの支払に係る保険料額として、当該第一号被保険者に係る同項に規定する支払回数割保険料額に相当する額(当該額によることが適当でないと認められる特別な事情がある場合においては、所得の状況その他の事情を勘案して市町村が定める額とする。)を、厚生労働省令で定めるところにより、特別徴収の方法によって徴収するものとする。

 

【介護保険法施行規則第158条】

  1. 市町村は、法第140条第2項(略)に規定する第一号被保険者について同項に規定する年の8月1日から9月30日までの間において同項の規定により特別徴収の方法により徴収する場合であって、当該徴収を行う額を同項に規定する支払回数割保険料額に相当する額(以下「一般仮徴収額」という。)又は同項に規定する市町村が定める額(以下「市町村決定額」という。)とすることが適当でないと認める特別の事情があるときは、一般仮徴収額又は市町村決定額に代えて、所得の状況その他の事情を勘案して市町村が定める額(以下「8月の変更仮徴収額」という。)を同項に規定する支払に係る保険料額とすることができる。
  2. 前項の場合において、市町村は、当該年度の6月20日までに、次に掲げる事項を特別徴収義務者に通知しなければならない。(後略)

年金事務所の調査

令和4年7月15日

 年金事務所が行う調査は、被保険者資格の確認と報酬の判定・算定が適正に処理されているかを確認することに重点が置かれています。

 

 被保険者資格の確認は、兼業副業の増加と、10月からの社会保険の適用拡大を控えて未加入社員を中心に調査が行われる傾向が見られます。

 加えて、最近ご相談が増えてきていると感じるのが複数の会社で役員(取締役)に就任しているケースです。

 

 役員として登記されている場合でも、無報酬であれば社会保険の等級(標準報酬)を設定しようがないので通常加入の対象にはなりえませんが、複数の法人から役員報酬を受けている場合にはそれぞれの会社で社会保険の加入対象となるのが通常の取り扱いです。

 

 しかし、役員報酬が少額である場合でも社会保険に加入しなければならないのかという問題があります。

 明確な基準があるわけではないため、いくらまでなら未加入となる、という判断ができず曰く言い難いところです。

 

 役員の社会保険の加入を判断する際に「常勤」と「非常勤」のカテゴリーで分けることがありますが、これも慣習的に呼称されるものであるため、最近の調査では説得力に欠けるものがあります。

 

 役員の社会保険の加入基準については、古い通達があります。(昭 24.7.28保発 74)

「法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、他面その法人の業務の一部を担任している者は、その限度において使用関係にある者として、健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取扱つて来たのであるが、今後これら法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。(後略)」

 

 これだけを読めば、わずかでも役員報酬を受けていれば加入対象とするようにも解釈できますが、実務的には上記通達を土台に「疑義照会」というかたちで上部機関に確認を取りながら判断しています。

 法人役員の加入基準についての疑義照会をいくつか確認してみると、勤務日数や勤務時間、役員会の出席頻度、他社との兼務の程度、業務執行権の実態、役員報酬の金額などから「常用的使用関係」があるかどうかで判断するとしています。これは監査役であっても同様の判断基準で取り扱うようです。

 

 報酬の判定・算定についても名称だけでは判断しかねる場合があります。

 例えば、勤続表彰金が社会保険上の「報酬」にあたるのかどうかが争われることがあります。

 永年勤続表彰については、過去の社会保険審査会で判断基準が示されているものがあります。(平成18.9.28社会保険審査会裁決)

 この事案では永年勤続表彰金が賞与には当たらないとされ、その根拠を次の点に求めました。

  1. 一定の勤続年数に達した者を永年勤続者とし、職種、労務の内容に関係なく一律に支給していた
  2. 永年勤続者の表彰は会社の創立記念日に行われ、該当者には心身のリフレッシュを図る目的で 5日間の特別休暇が与えられ、休暇付与 に伴う資金援助の性質を持つものとして本件表彰金が支給されていた
  3. 支払われる金額も社会通念上いわゆるお祝い金の範囲

 社会保険上の「報酬」とは、労働の対象として受けるものをいいます。結婚祝金のような恩恵的に支給するものは報酬にはならないと例示されていますが、永年勤続表彰金は個別のケースごとに実態判断をする傾向があるようです。

 なお、労働保険上では賃金としない取り扱いが例示されており、調査に対応する企業担当者からすれば何ともわかりにくく統一した見解を示してほしいと思う気持ちももっともな感じはします。

 

 毎年、算定基礎届の時期は年金事務所の調査も同時に行われることが慣例になっていますので、改めて自社の加入状況や賃金の支払状況を確認されると良いでしょう。

同居の親族の労働社会保険

令和4年6月6日

 スタートアップの会社や中小企業などでは、事業主と同居する親族が従業員と同じように働いているケースがあります。

 その際に、同居の親族が労働保険(労災保険・雇用保険)や社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入対象となるのか、といったご相談を受けることがあります。

 

 原則的な判断にあたってはいくつか基準があります。

  • 同居の親族が取締役に就任している場合
    会社から役員報酬を受けていることになるため、兼務役員でない限り労働保険に加入 することはできません。社会保険のみ加入することになります。
  • 同居の親族が役員ではなく、労働者として就労している場合
    会社から役員報酬ではなく、給与(賃金)として受けているため、労働者扱いとなり労働保険と社会保険の両方に加入することになります。

 

 同居の親族の場合、実務上、とくにポイントになるのが労働保険の取扱です。

 事業主と同居している親族は、原則としては労働保険の対象にはならないのですが、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業場において、一般事務、又は現場作業等に従事し、かつ、次の条件を満たしていると判断されれば、労働保険の加入対象となります。

 

  • 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
  • 就業の実態が当該事業所における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等・賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること
  • 事業主と利益を一にする地位(取締役等)にないこと

 

 他の一般従業員と同じように労働契約を締結しており、就業規則の適用も受け、日々の勤怠も同様に管理しており、実態として労働者性があれば労働保険の加入対象となります。

 

 ここで注意しておきたいのは、下線部分の「常時同居の親族以外の労働者を使用する事業場」という文言です。

 

 実務上の取り扱いでは、同居の親族以外の従業員がいない場合には、仮に上記の労務管理を行っていたとしても労働保険の加入対象にはならないという点です。 

 起業早々のファミリービジネスでは、最初のスタッフが身内になることはよくある光景ですが、他に労働者がいなければ労働保険の加入ができないというのは、結構高いハードルであるようにも感じます。

 

 いずれにせよ雇用保険の加入を希望する場合には、『「同居の親族」雇用実態証明書』と呼ばれる書類に賃金台帳や出勤簿等の証明書類を添付して、ハローワークの審査もあります。 

 審査が受かれば晴れて雇用保険の加入者(被保険者)となるのですが、同居の親族の場合、実際に雇用保険の給付を受けることがありうるのか、というそもそもの問題があります。

 

 身内が「失業」するケースといえば、廃業や事業譲渡ぐらいしか想定されてないと思われますが、あえて加入を希望するのであれば、ある程度「掛け捨て御免」の可能性を考慮に入れることになるでしょう。

 

 同居の親族について、厚生労働省の解釈(Q&A)は、こちらに掲載されています。  

 厚生労働省(Q5)

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000140565.html

  東京ハローワーク(Q9)

 被保険者に関するQ&A | 東京ハローワーク (mhlw.go.jp)

年金の時効

令和4年5月17日

 公的年金の時効は5年と決められていますが厳密にいえば若干異なります。

  公的年金の「受給権」といった場合、2つの顔があります。そもそもその年金を受ける権利を示す「基本権」と、2か月ごとに実際に振り込まれる「支分権」です。

 時効の援用は、支分権の年金について運用されています。

 

 年金は、毎年4月分から新年度の金額に改定されるルールになっており、年6回、偶数月の15日に、前2ヶ月分が振り込まれる仕組みです。

 新年度の改定された額が最初に振り込まれるのは6月15日となり、4月分と5月分ということになります。

 

 各期月に振り込まれるのは「年金額×1/12×2ヶ月分」になるわけですが、端数が生じることがあります。以前は、切り捨てた額が振り込まれていましたが、被用者年金一元化にともない、共済組合の取り扱いと同様に2月支払期に切り捨てた端数分を上乗せ支給する処理に変わっています。

 

 時効の話に戻すと、支分権の年金の起算日は「各支払期月の翌月の初日」と定められています。

 上の例でいえば、6月15日(支払期月)の翌月の初日で、7月1日が起算日となります。そこから5年後の6月30日が時効満了日ということになります。

 4月分の年金からすると、実質的には5年2ヶ月の猶予があることになります。

 

 平成29年8月に老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給資格期間が25年から10年に短縮されました。

 今年、制度改正から5年の時効満了時期を迎えます。日本年金機構では昨年暮れから、未請求者に向けて請求勧奨のリーフレットを送付しています。

 

 改正当時の5年前も、年金機構では新たに受給権を得る人に向けて年金請求書を発送していました。

 厚生労働省の推計によると、請求送付対象者-受給資格期間が10年以上25年未満-は、70万人ほどで、そのうち約8割の請求を受け付けている状況だそうです。

 ただし、受給資格期間には合算対象期間(カラ期間)を含めることができるため、潜在的な受給権者はさらにいると見込まれています。

 

 請求勧奨のリーフレットを見た人たちが、年明けから年金事務所へ出向き、請求件数が急増しています。リーフレットが届いた方は早めに年金事務所へ行かれるとよいでしょう。

 加入期間が10年に満たない人でも、カラ期間があれば受給に結び付く可能性がありますので、同様に年金事務所で調べてもらうとよいでしょう。

 

 余談ながら、請求勧奨リーフレットを見て引っかかったところがあります。リーフレットに記載されている年金請求書の提出期限が「令和4年3月31日」と記載されているところです。注意喚起の一環として早めの日付を設定した模様ですが、これをみた該当者が誤解して、請求を断念してしまわないか心配になりました。

 

 4月以降の請求も受け付けていますし、時効についても上記の規定に従って運用されますのでご注意ください。

国民健康保険組合

令和4年4月14日

 国民健康保険組合(国保組合)は、国民健康保険法に基づき設立される健康保険組合です。健康保険組合といえば、一般的には会社の健康保険組合(組合管掌健康保険)がお馴染みです。こちらは健康保険法がよりどころになっています。

 国保組合は、いわば国民健康保険版の職域組合と位置付けられます。

 

 日本の医療制度は、昭和36年に「国民皆保険」の理念を掲げ、(実態はともかく)いずれかの医療保険制度に加入することを原則としています。

 

 どの医療保険制度に加入するかは「地域」と「職域」によって区分されます。大まかに区分すれば次のように整理できます。

  • 健康保険:地域⇒全国健康保険協会(協会けんぽ)

        職域⇒健康保険組合

  •  国民健康保険:地域⇒都道府県別の国民健康保険(窓口は市区町村)

          職域⇒国民健康保険組合

 

 国保組合は職域の医療保険なので会社を加入単位にしているケースがほとんどですが、あくまで国民健康保険制度であるため、健康保険にあるような出産手当金や傷病手当金はなく、任意継続被保険者制度も原則は設けていません。

 被扶養者という概念もなく、扶養家族も被保険者扱いになります。

 加入者の職種や身分によって保険料が異なるのも健康保険にはない特徴です。

 

 実務的な特徴としては、保険加入(資格取得)の手続が、協会けんぽや健康保険組合の手続より手間が多くなります。

 

 協会けんぽの場合、健康保険と厚生年金の加入手続きは同時に行います。しかし、国保組合の場合、健康保険は国保組合へ、厚生年金は年金事務所へ行います。

 ここまでなら健康保険組合の手続と変わらないので複雑ではないのですが、国保組合の場合、年金事務所に「適用除外承認」の申請を行います。「国保組合に加入するので厚生年金のみ加入します」という届出です。

 

 そして年金事務所から「適用除外承認証」と呼ばれる書類の発行を受けて、国保組合へ提出します。

 年金事務所と国保組合の間の書類往還が通常より多くなるうえに、住民票などの独自の必要書類もあったりします。また厚生年金の加入に使用する資格取得届も、国保組合専用の用紙を使います。

 

 年度初めは入退社が多く発生しがちです。適用除外承認は、原則として資格取得日から14日以内に行うことにもなっています。段取り良く手続を進めていくことが大事になります。

はがき「雇用保険被保険者数のお知らせ」

令和4年3月16日

 厚生労働省(ハローワーク)では、定期的に事業所に向けて雇用保険の加入者(被保険者)の手続漏れを周知する案内(はがき)を送付しています。

 

 令和4年3月分のお知らせハガキが送付されていると思いますが、このハガキの便利なところは、現在雇用保険に加入している被保険者数とそのうち登録されている個人番号の登録者数が確認できるところです。今年度は令和3年11月末時点の記録が掲載されています。

 

 さらに、ハガキには事業主印の欄が掲載されていて、そこに押印(または事業主名を記載)して郵送すると、現状雇用保険に加入している被保険者の詳細なデータを管轄のハローワークから送ってもらうことができます。

 事業主印の脇には代理人氏名欄もあり、社会保険労務士が代わりに受領することも可能です。

 

 今年度のハガキの特徴として、裏面に4月から変更される雇用保険料率が掲載されています。現時点では国会に提出中で正式には未決定の段階ですが、ほぼ可決されることを見通しているということでしょう。

 

 新年度は、入退社など人の動きが多くなる時期で手続漏れも発生しやすいリスクもありますので、現況確認の一環として有効活用されてみてはいかがでしょうか。

 

 厚生労働省のホームページにもお知らせハガキに関するFAQが掲載されています。

 雇用保険被保険者数お知らせはがき(令和4年3月送付分)に関するFAQ (mhlw.go.jp)

期間雇用ルールと労働契約申込みなし制度

令和4年2月21日

 ひと昔前、労働者派遣法では「2018年問題」と呼ばれる改正がありました。

 

 ひとつは、届出制の特定労働者派遣事業が廃止され許可制に一本化されたことによります。3年間の経過措置ののち、2018930日以降は無許可の旧特定労働者派遣事業者からの受け入れが禁止されました。

 

 もうひとつは、期間制限ルールが導入されたことです。

 改正法施行日(2015930日)以降に締結または更新された労働者派遣契約については、同一の派遣労働者が同一の会社(事業所)、同一の業務(組織単位)に3年を超えて従事することができないとする取り扱いです。

 

 いずれも猶予期間が3年だったことから、2018年までに改正内容に対応する必要がありました。

 

 許可制の一本化は、(資産要件のハードルがあるものの)許可要件を満たせばよいので対応はシンプルです。

 しかし、期間制限ルールについては、人員のオペレーションが絡むため対応が一筋縄ではいかないところもありました。

 それは、同時に制度化された「労働契約申込みなし制度」に対応しなければならなかったためです。

 

 「労働契約申込みなし制度」は、違法な労働者派遣を受け入れた場合、その時点で派遣先企業が派遣労働者に対して、その派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす取り扱いをいいます。

 「違法な労働者派遣」とは、次の4つケースとしています。

  1. 労働者派遣の禁止業務に従事させた場合
  2. 無許可の派遣元事業主から労働者派遣を受け入れた場合
  3. 期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合
  4. いわゆる偽装請負の場合

 

 3年を超えて派遣労働者を同一の部署等で受け入れた場合には、労働契約申込みなし制度が適用されることになります。

 

 ここで確認しておきたいのは、期間制限ルールには対象外となる派遣労働者がいます。

  1. 無期雇用契約者
  2. 60歳以上の者
  3. いわゆる有期プロジェクトで派遣されている者
  4. 育児介護休業の代替要員で派遣されている者

 

 無期雇用契約の派遣労働者には、そもそも期間制限ルールが適用されないため、労働契約申込みなし制度も適用されないことになります。

 無期限で同じ会社の同じ部署への労働者派遣が可能となるわけなので、派遣元会社は無期雇用転換によって対応を図る選択肢を検討します。

 おりしも2018年(平成30年)は、平成25年に改正労働契約法が施行されてからちょうど5年の時期でもあり、(実際に無期雇用転換が期待するほど浸透したかは別として)無期雇用転換制度が強く意識された年でした。

 

 派遣元企業が無期転換雇用に切り替える対応が可能であれば、労働契約申込みなし制度の問題はなくなるものの、他の労働条件(昇給や退職金、賞与など)の見直しに波及することも想定しておくとよいでしょう。

 就業規則の適用範囲を確認することは必須です。

 

 なお、無期雇用派遣労働者や60歳以上の派遣労働者が対象外になるのは「期間制限ルール」であり「労働契約申込みなし制度」ではありません。

 例えば、60歳以上の派遣労働者であっても派遣禁止業務に従事させた場合等のケースでは、労働契約申込みなし制度が適用される点は、押さえておきたいところです。

 

 労働契約申込みなし制度のリーフレットはこちらからダウンロードできます。

 派遣労働者の受入れ (mhlw.go.jp)

社会的治癒(ゆ)

令和4年1月17日

 昨年も事務所ブログをご愛読いただきましてありがとうございます。

 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 さて、今年最初のブログテーマは「社会的治癒」についてです。

 一般にはあまり聞きなれないフレーズですが、社会保険の世界では、しばしば登場します。とくに給付の権利(受給権)をめぐって請求者と保険者(行政機関等)が争う場面で用いられます。

 

 法的な用語ではなく慣習的なものですが、ある社会保険審査会での裁決のなかでその意味を説明したものがあります。(平成26年(厚)第892号 平成27年9月30日裁決)

 

『(前略)社会保険の運用上、傷病が医学的には治癒に至っていない場合でも、予防的医療を除き、その傷病について医療を行う必要がなくなり、相当の期間、通常の勤務に服している場合には、「社会的治癒」を認め、治癒と同様に扱い、再度新たな傷病を発病したものとして取り扱うことが許されるものとされており、(後略)』

 

 「相当の期間」がどのぐらいの期間を指すのかは決められておらず、個別の事案ごとに判断されます。

 今年1月より改正がなされた傷病手当金についても、この社会的治癒が問題になるケースがあります。

 

 昨年まで、傷病手当金は支給開始日から1年6か月間支給されることになっており、再発したときに支給開始日から1年6か月が経過していれば支給対象外となります。

 しかし、ある傷病が一時的に治癒して、「相当の期間」が経過した後で再発した場合に”社会的治癒がなされたと判断されれば、新たな傷病として傷病手当金の支給が再開されるという取り扱いがセットで運用されていました。

 

 法改正によって支給期間が通算して16カ月になったことで(通算化制度)、再発時に支給開始日から16か月間経過していても不支給期間の分だけ給付が継続されるようになりました。

 

 被保険者からすると働きながら療養できる期間が延長できるようになったわけですが、その一方で社会的治癒との整合性をどう図るかといった指摘がなされています。

 通算化制度が導入されたことは、受け取り方によっては再発時での社会的治癒のハードルが上がる(同一傷病と判断される傾向が強まる)結果、改正前よりも傷病手当金の総給付期間が短くなるのではないか、という懸念です。

 

 今回の改正は、従来から通算化制度が導入されていた共済組合の取り扱いにあわせる主旨で行われましたが、社会的治癒の運用については今のところ変更等は明示されてはいないので、再発時点での保険者審査は継続されるものと思われます。

 

 事前開催された社会保障審議会でも通算化によって想定される課題がいくつか示されており、社会的治癒については、「同一の疾病かどうか、それから再発したかどうかという判断は現場では非常に難しいものがあるため、ある意味分かりやすい基準の設定や弾力的な運用ということを併せて考えていただき、現場の混乱を回避するようすべき」という意見がなされています。

 

 社会保障審議会の詳細はこちらにも公開されています。(資料4傷病手当金について)

 社会保障審議会医療保険部会資料 (mhlw.go.jp)