Mikura Labor & Social Security Attorney Office

みくら社会保険労務士事務所

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特別障害給付金

令和3年12月6日

 国民年金の強制加入の対象外(任意加入)の人が被保険者になっていなかったことによって障害基礎年金等を受けられない問題を解決するために特別障害給付金制度があります。

 

 特別障害給付金が始まったのは平成17年4月のことですが、きっかけとなったのが2000年前後に全国で同時多発的に行われた「学生無年金訴訟」といわれています。

 

 平成3年3月までは学生は国民年金の任意加入の取り扱いでした。国民年金に任意加入していない20歳上の学生が障害を負った場合、障害基礎年金の「初診日おいて被保険者であること」という条件を満たすことができません。

 20歳未満であれば20歳前障害の障害基礎年金があり、社会人であれば社会保険に加入するため障害厚生年金でカバーされます。

 20歳から社会人になるまでのわずかな期間だけ、たまたま任意加入をしていなかったがために制度の谷間に落ち込んでしまうのは均衡を欠くということから社会問題になりました。

 

 裁判の詳細は省略しますが、東京地裁(平成16年)では原告の主張が認められるものの、最高裁(平成19年)では原告の主張が退けられました。

 特別障害給付金制度は、こうした流れの中で法制化に結びつきました。地裁判決と最高裁判決の間で制度が始まっていることを踏まえれば、地裁判決の結果が立法機関に影響を与えたと判断してよいでしょう。

 

 年金法に限らず、固定残業手当や同一労働同一賃金の訴訟など労働法の分野でも多発しているテーマがあります。ついつい最高裁判決だけを重視してしまうことはやむを得ないところですが、そこに至る経緯こそが社会を変える原動力になっていることを示す好例だと感じます。

 

 ただし、特別障害給付金制度にも課題はあります。制度の対象者になるのは、次のケースのみです。

  1. 平成3年3月以前に国民年金任意加入対象であった学生
  2. 昭和61年3月以前に国民年金任意加入対象であった被用者等の配偶者であって、当時、任意加入していなかった期間内に初診日があり、現在、障害基礎年金の1級、2級相当の障害の状態にある者。(ただし、65歳に達する日の前日までに当該障害状態に該当された方に限る)

 

 法制化を進めていた当初、もともとは海外居住者や国内居住の外国籍の人など、すべての任意加入者を対象にする予定だったといわれていますが、結果的には上記1.2だけを対象者としました。

 任意加入といえば合算対象期間(カラ期間)がすぐに思い浮かびますが、カラ期間中の初診日のすべてが特別障害給付金制度の対象になるわけではないというところは注意が必要です。

 

 特別障害給付金制度の概要は、日本年金機構のホームページにも掲載されています。

 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/tokubetsu-kyufu/tokubetsu-kyufu.html

テレワーカーのみなし労働時間制

令和3年11月8日

 テレワークが定着するなか、労働時間の補足が難しいというご相談を受けます。

  在宅勤務は業務の進捗状況をリアルタイムで確認しづらい、ともいいます。

 始業・終業の報告をオンラインでやりとりしているものの、中抜け時間の把握など日々の煩雑さもあって、事後確認にならざるを得ないという本音すら聞きます。

 

 「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の導入によって解決しようとする会社が増えているのは、ある意味では当然の流れともいえます。

 

 事業場外労働に関するみなし労働時間制は、勤務時間の全部または一部を社外で就業する場合で「労働時間が把握できない」ときに事業場外の労働時間を通常の労働時間(所定勤務時間)とみなせる制度です。

  「労働時間が把握できないとき」という解釈について、古くから伝わる有名な行政通達があります。(昭和6311日基発第1号)

 

『事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務であること。したがって、次の場合のように、事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はないものであること

  1. 事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
  2. 略 』

 

 ②を俗に「携帯・ポケベル通達」と言ったりします。この通達が営業マンなどに事業場外労働みなし労働時間制を活用しようとするときの障壁になっていました。 

 その後、在宅勤務者について新たに次の通達が発せられたことによって、テレワーカーについてはその導入が現実味を帯びてきます。

 

『情報通信機器を活用した在宅勤務に関する法第38条の2の適用について

【問】次に掲げるいずれの要件をも満たす形態で行われる在宅勤務(労働者が自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態をいう。)については、原則として、労働基準法第38条の2に規定する事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用されるものと解してよろしいか。

  1. 当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
  2. 当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
  3. 当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。

 

【答】貴見のとおり。

(前略)。「通信可能な状態」とは、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて電子メール、電子掲示板等により随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者から具体的指示があった場合に労働者がそれに即応しなければならない状態(即ち、具体的な指示に備えて手待ち状態で待機しているか、又は待機しつつ実作業を行っている状態)の意味であり、これ以外の状態、例えば、単に回線が接続されているだけで労働者が情報通信機器から離れることが自由である場合等は「通信可能な状態」に当たらないものであること。

「具体的な指示に基づいて行われる」には、例えば、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これらの基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれないものであること。(後略)(平成20.7.28基発0728002号)』

 

 細かい表現を省けば、①労働者が業務中にパソコンから自由に離席することができ、②会社の業務指示が基本的事項に留まるもの、であれば在宅勤務者に事業場外労働に関するみなし労働時間制を適用することができるようになります。

 

 この通達は平成20年に発せられたもので、当然ながら今回のコロナ禍を想定したものではありません。約10年の歳月を経て、奇しくもクローズアップされたものです。 

 このような脚光の浴び方になるとは、おそらく誰も(通達自身すらも)想像外の事態だったでしょう。

 

関連情報はこちらからご参照できます。

テレワークポータルサイトQ&A

https://telework.mhlw.go.jp/qa/qa2-03/

 

厚生労働省テレワークガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/03/h0305-1.html

〇〇月間の秋

令和3年10月11日

 われわれの業界に限らず、秋は、夏と冬の繫忙期の端境期にあるせいか、「凪」のような時期になります。

 

 行政機関にとってもそうであるのかと感じさせるのが、「〇〇月間」の多さです。厚生労働省管轄、それも社会保険労務士の業務領域に絞ってもさまざまな強化月間があります。

  • 全国労働衛生週間:10月

  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19768.html

  • 高年齢者就業支援月間:10月

  https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/index.html

  • 過労死等防止啓発月間・過重労働解消キャンペーン:11月

  https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177422_00004.html

  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/roudoukijun/campaign.html

  • ねんきん月間:11月

  https://www.nenkin.go.jp/info/torikumi/nenkingekkan/gaiyou/2020.html

  ※令和2年広報

  • テレワーク月間:11月

  https://www.teleworkgekkan.org/

  • 職場のハラスメント撲滅月間:12月1日~

  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07905.html

   ※令和元年広報

 

 余談ながら、ふと気になって調べてみたら社会保険労務士業界にも月間がありました。(今頃知ったこと自体、社労士としてどうなのかという反省はありつつも)、やはり10月でした。

 https://www.shakaihokenroumushi.jp/about/tabid/203/Default.aspx#hakusho

 ※サイト最下部。令和2年度広報

 

 シンポジウムや相談コーナーの特設などが活動主体ですので、月間活動に目に見える形での成果が表れているかどうかわかりません。

 うがった見方をすれば、強化月間と制度改正をリンクさせることで周知効果を相乗させる狙いもあるかもしれません。

 例えば、厚労省は、9月、脳・心臓疾患の労災認定基準、いわゆる過労死認定基準を20年ぶりに改正しています。

 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21017.html

 

 夏休みのように休むわけでもなく、かといって暮れのように慌ただしくなるのでもない。気候もしのぎやすいに秋の夜長に来し方行く末をじっくり考えてみましょう、ということなのでしょう。

 

 そのせいなのか、「月間」ではないものの10月は「年次有給休暇取得促進期間」でもありました。

 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06788.html

年金請求の添付書類

令和3年9月13日

 年金相談を受けるときに、相談内容のほとんどは年金額に関するものと、請求手続に関するものです。

 

 年金額に関する相談については、いつからいくら支給されるかといった見込額に関する内容や働きながら年金を受ける場合の在職老齢年金についての相談、繰り上げ・繰り下げのメリットとデメリット、失業保険や雇用継続給付、遺族年金などとの併給調整あたりがメインといってよいでしょう。

 請求手続についていえば年金請求書の書き方と添付書類に集約されます。

 

 近年、この添付書類の取り扱いについて簡略化が進んでいます。マイナンバーの浸透によって日本年金機構がオンラインで確認することができるようになったためです。

 

 俗に「3点セット」とよばれる「戸籍謄本・住民票・所得証明書」がその代表とされます。添付目的は生年月日や婚姻関係、生計同一要件、収入要件を確認する資料として提出するものですが、生年月日と収入要件はマイナンバーで確認することができるようになっており、住民票や所得証明書などは省略できるようになっています。

 ただし、戸籍情報は紐づけがなされておらず、加給年金や振替加算などの対象者は戸籍謄本を用意する必要があります。

 

 これまで年金相談のなかで、3点セットは自治体で発行するものであり、年金の請求のために使用する場合、市区町村によっては無料で発行してくれるところもあるということを伝えていたものですが、今後はそんな説明も要らなくなりそうです。

 

 年金請求書も、以前は支給開始年齢が到達すると自分で請求書を取り寄せて氏名から書いていたものですが、ターンアラウンド方式になってからは事前に送付されるようになり、氏名や生年月日、加入履歴など基本情報も印字されています。

 ずいぶん楽になったと感じるのですが、相談者からすると過去の経緯は関知しないところで、「記載するところが多くて内容も複雑だ」という声もまだまだ聞きます。

 

 とはいっても大筋は手続き簡素化の方向に行くことは確実で、今後の年金相談は年金額に関する内容が主軸となっていくのでしょう。今まで以上に働き方や医療制度など関連する周辺制度まで踏み込んだ相談が求められていくことは容易に想像できるところです。

 

 年金請求におけるマイナンバーの取り扱いについての省略化はこちらにも掲載されています。

 https://www.nenkin.go.jp/service/mynumber/1224.html#cms03

労働者派遣事業の様式集

令和3年8月12日

 労働者派遣事業を行う場合には労働者派遣法(派遣法)で定める書類を作成し、通知し、保存することが義務づけられています。

 

 労働者派遣は、俗に「“雇用”と“使用”が分かれる状態」」という表現どおり、派遣元会社・派遣先会社・派遣労働者の3者で成り立っています。

 

 派遣法では、①派遣元会社と派遣先会社、②派遣元会社と派遣労働者、の間での書類のやり取りについて主に定めています。

 

 ①の派遣元会社と派遣先会社の間で交わされる書類には次のようなものがあります。

  • 労働者派遣基本契約書(派遣元⇔派遣先)
  • 労働者派遣個別契約書(派遣元⇔派遣先)
  • 派遣先への通知書(派遣元⇒派遣先)
  • 事業所抵触日の通知書(派遣先⇒派遣元)
  • 待遇等に関する情報提供(派遣先⇒派遣元)

 

 ②の派遣元会社と派遣労働者の間で交わされる書類には次のようなものがあります。

  • 就業条件通知書(派遣元会社⇒派遣労働者)
  • 労働条件通知書(派遣元会社⇔派遣労働者)
  • 待遇に関する事項等の説明(派遣元会社⇒派遣労働者)

 

 これに加えて、派遣元会社では派遣元管理台帳を作成・保管することが定められており、マージン率等の公表も必要です。

 同様に派遣先会社にも派遣先管理台帳の作成・保管が義務づけされています。

 

 それぞれの書類の用途や記載する項目については割愛しますが、帳票の多くは共通する項目もありますので集約して保管するとよいでしょう。

 近年は派遣法改正が続いており、平成27年に行われた改正と、働き方改革関連法の一環として行われた令和2年の改正(同一労働同一賃金)の改正にあわせて帳票類の様式が更新されています。

 

 都道府県労働局のホームページには最新の様式集も公開しているところもあり、東京労働局のホームページにも掲載されているのですが、「※愛知労働局の参考様式例を掲載しております。」と付記しているところがなんとも正直な潔い告白です。愛知県は土地柄、派遣業が盛んなところということでしょう。

 

 両労働局のサイトはこちらになります。

【東京労働局】

労働者派遣事業に係る契約書・通知書・台帳関係様式例 | 東京労働局 (mhlw.go.jp)

 

【愛知労働局】

https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudousha_haken/hourei_seido.html

日本版O-NET

令和3年7月9日

 タイトルだけをみると国営の婚活支援サービスかと思われるかもしれませんが違います。

 日本版O-NETは、厚生労働省の職業情報提供サイトです。

 

 「ジョブ」(職業、仕事)、「タスク」(仕事の内容を細かく分解したもの、作業)、「スキル」(仕事をするのに必要な技術・技能)等の観点から職業情報を「見える化」し、求職者等の就職活動や企業の採用活動等を支援するWebサイトのことをいいます。

  アメリカの労働省が1998年より公開している職業情報データベース、ならびに2000年から運営する職業情報サイト(O*NET OnLine)を基に命名されています。(ホームページからの抜粋)

 

 日本版O-NETには、約500の職業について業務内容や昨今の労働条件などが掲載されています。

 求められるスキルや学歴、当該職業に従事している人が保有する興味や価値観などを調べることができます。

 

 はじめは求職者が希望する職業の詳細を調べるときに活用するものかと思いましたが、個人的には、評価制度を作成するときのツールになりそうな気がしました。

 以前、派遣労働者の同一労働同一賃金の労使協定を作成した際、派遣労働者の職種別の評価制度を作るにあたって企業様からご相談を受けることが多かったのですが、職種によってはいまいちイメージがわきにくいものがありました。

 このサイトを参照すれば深堀した仕事像を捉えられるかもしれない、とふと思ったりします。

 

 なお、社会保険労務士も紹介されています。興味のある方は下記サイトより「職業検索」タブからフリーワード「社会保険労務士」でご覧ください。

 

 日本版O-NET

 ホームページ | 職業情報提供サイト(日本版O-NET) (mhlw.go.jp)

令和3年度の算定基礎届

令和3年6月16日

 今年の算定基礎届も昨年に引き続きコロナ禍での申告になりそうです。

 昨年は休業手当の取り扱いに注目が集まりました。今年度も算定基礎届の集計期間である4月~6月が緊急事態宣言下であります。

 

 今年特有のポイントになりそうなのが通勤手当と在宅勤務手当の取り扱いです。テレワークを導入・定着させた企業にとっては、各種手当の支給基準を変更したところもあると思われます。

 

 論点としては、2点あります。

 

 ひとつは、通勤手当と在宅勤務手当が算定基礎届で定義する報酬に含まれるのか、という問題で、もうひとつは、テレワークを機に通勤手当の支払方法を変更したり、あらたに在宅勤務手当を導入したことが固定的賃金の変動にあたるのか、という問題です。

 

 令和341日、厚生労働省は日本年金機構に「『標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集』の一部改正について」という事務連絡を通知しています。

 この通知は、平成 29 年6月2日付けで厚生労働省が通知した表記事例集に、通勤手当と在宅勤務手当についての取り扱いを補足したものです。

 詳細は厚生労働省の「テレワーク総合ポータルサイト」に掲載されてますので、そこから確認することができます。

 

 要点だけあげておくと、通勤手当の場合、支給対象となる日の勤務場所が自宅か会社かで変わります。

 勤務場所が自宅で業務上の都合で外回り等の実費として通勤手当が支給されたときは実費精算扱いで報酬とはなりません。

 他方、勤務場所が会社で、自宅から会社までの交通費として通勤手当が支給されているときは報酬となります。

 

 在宅勤務手当については、在宅勤務にかかる費用に関係なく定額や渡し切りで支給されている場合には報酬扱いとなります。

 逆に、在宅勤務にかかる費用に連動して費用精算されていると判断されるものについては実費精算として報酬とはなりません。

 

 固定的賃金の取り扱いについては、通勤手当にせよ在宅勤務手当にせよ固定的賃金の変動はそれぞれの手当が上記の判断で報酬とみなされた場合に下記の取り扱いにすると示されています。

 

 通勤手当の場合、1か月分の定期代を支払っていたものがテレワークの導入により通勤手当が支払われなくなる、支給方法が月額から日額単位に変更される等の固定的賃金に関する変動があった場合には、賃金体系の変更ということで固定的賃金の変動となります。 

 在宅勤務手当についても、テレワークの導入により新たに支給されると固定的賃金の変動となります。

 

 昨年に引き続き異例ずくめの算定基礎届となりそうですが、最新の通達等を確認しながら進めていかれるとよいでしょう。

 

 厚生労働省のテレワーク総合ポータルサイトはこちらにアップされています。

 http://telework.mhlw.go.jp/qa/

男性の育児休業

令和3年5月24日

 国の政策的意図や役割分担意識の変化もあってか、最近は男性の育児休業に関する相談が増えてきている実感があります。

 

 ただ女性の育児休業と比較すると、短期間の休業が多いのも事実です。

 

 そのときに、短期間の育児休業でも「育児休業給付は対象になるのか」「社会保険料は免除されるのか」の2点に関心が集まります。

 

 育児休業給付は雇用保険で定める休業期間中の所得補償です。原則、子供が1歳になるまでの間に休業していて会社から賃金補償もなければ給付対象になり、その長さについては要件上求められていないため、他の支給条件を満たせば、短い育児休業でも該当します。(給付額は期間に応じた額にはなります)

 女性のように産後休業の概念がなく、出産日の翌日から育児休業が取得できるため、給付申請にあたっては育児休業申出書の添付など男性特有の資料が求められます。

 

 社会保険料の免除の取り扱いについても原則通りです。保険料免除期間は「休業を開始した日の属する月から終了日の翌日が属する月の前月」までが免除期間となります。

 

 仮に休業期間が1ケ月に満たない場合でも、月末まで休業していればその月分の社会保険料が免除となります。極論すると休業期間が1日でも月末に取得すれば免除となるわけですが、育児休業期間が月末まで至らず同一月内にある場合には免除になりません。

 

 この問題を解消するべく、現在健康保険法の改正案が国会に提出されています。同一月内の休業でも14日以上であれば免除とする内容です。可決されれば2022年の10月より改正施行される予定です。

 

 育児休業給付にせよ、社会保険料免除にせよ「育児介護休業法に定める育児休業」を取得した場合に受けられる制度です。

 育児介護休業法では、年齢上の期限は設けているものの、取得する期間についての制約がありません。制度上は極めて短い休業を取得することも可能ではあります。

 

 ただ、休業取得した結果として所得補償や負担免除の恩恵が受けられるというところでもありますので、育児介護休業法の趣旨を踏まえた休業が取得されていくことを期待したいところです。

 

 健康保険法改正案の内容はこちらからご確認いただけます。

 全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案

 https://www.mhlw.go.jp/stf/topics/bukyoku/soumu/houritu/204.html

労災保険の受任者払い制度

令和3年5月10日

 仕事中のけがや病気などで会社を休業した場合、労災保険から所得補償(休業補償給付)が支給されます。

 休業補償給付は申請から認定されるまでに1カ月程度かかることが通例であるため、その間の労働者の生活費の問題が生じることがあります。

 

 労災保険の受任者払い制度は、こうしたケースを想定して設けられています。事業主が休業補償給付にかかる給付金相当額を立替え払いして、後日労災が認定された際に労働者に代わって保険給付を受け取ります。

 

 近年は精神疾患にかかる労災請求が増えており、その認定には時間を要することも多く、従業員から制度の利用を求められることもあるようです。

 精神疾患にかかる労災請求でも会社として応じられるのではあれば利用することは可能ですが、注意点もあります。

 

 まず、認定のための審査が長期化することによって、会社の立替費用が膨らんでいくことになります。想定されるまでの期間を予測しておくことが重要です。

 

 次に、清算方法の問題です。休業補償給付の額は法令で定められた計算によって決まりますが、会社が立替え払いする金額は必ずしもそれに準拠する必要はないとされています。結果として休業補償給付との額に過不足が生じたときの精算について労使間で決めておく必要があります。

 

 そして、精神疾患のようなケースは労災として認定されないこともあり得ます。その場合の会社が立替えた費用についての返済方法も考慮しておかなければなりません。

 

 受任者払い制度は、休業補償給付の請求の際にあわせて届出書を添付することで活用することができますが、上記のような問題もありますので慎重に判断するとよいでしょう。

押印の廃止

令和3年4月15日

 昨年の夏、閣議決定された「規制改革実施計画」に基づいて、行政手続の制度・慣行を抜本的、恒久的に見直しを図る目的で、いわゆる「押印廃止」制度が示されたのは昨年の暮れのことになります。

 

 社会保険労務士の守備範囲でいえば、令和2年12月25日に「押印を求める手続の見直し等のための厚生労働省関係省令の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第208号)」がそれにあたります。(公布日と同日に施行)

 

 労働社会保険諸法令に定められている申請書や届書の多くには事業主(会社)や被保険者(従業員等)の押印欄がありましたが、改正省令を受けて様式が変更して押印欄がなくなりました。申請書のなかには医師等の関係者の押印が必要なものもあるのですが、それも廃止となっています。

 

 一例をあげると健康保険法の傷病手当金(医師の証明欄について)は次のように変更されています。

【健康保険法施行規則第84条】

  • 改正前(第1項、第2項、第4~8項省略)

「前項第一号の意見書には、これを証する医師又は歯科医師において診断年月日を記載し、記名及び押印をしなければならない。」

  • 改正後(同上)

「前項第一号の意見書には、これを証する医師又は歯科医師において診断年月日及び氏名を記載しなければならない。」

 

 その一方で今回の改正省令は「行政手続」における押印廃止を定めたものであり、一部、従来どおりに押印が必要な届書もあります。

  • 保険料の口座振替申出書等における金融機関の届出印
  • 公的年金等の受給権者の扶養控除申告書にかかる申請者印
  • (年金分割の合意請求書用の)委任状

 

 押印義務が継続される根拠はいくつか説明されていますが、民間同士の契約関係や意思表示を確認するためや税法など他の法律で義務付けられているためなどの理由が多いようです。

  

 押印が廃止されることは手続簡素化、事業主や被保険者の負担軽減につながり、行政機関や我々社会保険労務士にとっても業務効率の向上が期待できるところです。

 

 各行政機関が発表している通知より詳細を確認することができます。

 

  • 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/jyouhouseisaku/index_00001.html

  • 協会けんぽ(全国健康保険協会)

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g1/r3-2/2021021301/

  • 日本年金機構

https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2020/202012/20201225.html

中途採用率の公表義務制度

令和3年3月15日

 毎年4月は新年度の始まりということもあって、例年多くの法改正が施行されます。保険料率や年金額など毎年度変わるもの以外で注目されるのは労働施策総合推進法の改正です。

 

 もともとこの法律は「雇用対策法」という名称でしたが、働き方改革関連法の改正で現在の名称に変更しました。

 

 最近では、昨年6月に施行されたパワハラ防止規定の改正がありますが、2021年4月1日より「中途採用労働者の採用率の公表制度」が義務化されます。

 

 「職業生活が長期化されていくなかで中途採用の環境整備を進める必要から、中途採用の情報公表を通じて、企業が中途採用者に長期的な安定雇用を提供していることを明らかにして、企業と中途労働者のマッチングを促進する」というのが制度の趣旨です。(厚生労働省のホームページより抜粋)

 

 公表の内容は、規模・期間・方法について次のように示されています。

  • 公表義務の対象となるのは、301人以上の企業
  • 直近3事業年度の各年度について、正規雇用労働者の採用数に占める中途採用者数の割合
  • おおむね毎年1回、インターネット等の方法を用いて公表

 

 「中途採用者」とは、「新規学卒等採用者以外」の労働者を指します。公表の方法としてインターネット以外の方法では、事業所への掲示や書類の備え付け等による方法を例示しています。

 

 罰則規定のない改正ではありますが、多くの企業が人材獲得に苦戦している状況だと思いますのでアピールの手段として活用されてみてはいかがでしょうか。

 

 制度の詳細については、厚生労働省のサイトにも掲載されています。Q&A集も公表されていますので、対象規模に当てはまる企業の方は、ご参照ください。 

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/tp120903-1_00001.html

 

令和3年度の雇用保険料率

令和3年2月18日

 厚生労働省の労働政策審議会は、令和3年度の雇用保険料率を前年度と同率に据え置くことをおおむね妥当と答申しました。

 

 これにより、令和3年度の雇用保険料率は前年度と同じく0.9%(一般の事業)となります。

 保険料率の内訳としては、次のようになります。

  • 失業等給付:0.2
  • 育児休業給付:0.4
  • 雇用保険二事業:0.3

 

 雇用保険二事業にかかる保険料は全額事業主負担となり、失業等給付分と育児休業給付分を労使で折半負担するため、労使の負担率はつぎようになります。

  • 労働者負担分:0.3
  • 事業主負担分:0.6

 

 令和3年度の雇用保険料率は令和元年度決算額の基づき算定されるため、新型コロナウイルス感染症による失業保険や雇用調整助成金の給付費用の影響は、労働保険料率の弾力条項の適用でカバーされたかたちとなりました。

 

 その一方、答申では育児休業給付費用の急増が指摘されています。

 厚生労働省の資料によると、平成20年度に約1,500億円だった給付費が令和2年度では約7,900億円となる見込みです。初回受給者数でみれば、女性は平成20年度から令和元年度まで約2倍(165,221人⇒353,667)、男性は約19倍(1,440人⇒27,792人)となっています。

 

 これを受けて令和2年度から育児休業給付の収支は、失業等給付費と区分して財政運営を管理していくことになっています。

 

 男性の育児休業の取得率を30%までに引き上げる目標が掲げられているところでもあり、さらなる給付費増も報告されています。

 

 答申の詳細は、厚生労働省のサイトをご参照ください。

 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_030127159_001.html

 

育児介護休業法の改正(時間単位の休暇取得)

令和3年1月12日

 明けましておめでとうございます。

 旧年中も事務所ブログをご覧いただきありがとうございます。

 本年もタイムリーなテーマをお届けしていきたいと思います。

 どうぞよろしくお願いいたします。

 

 今年最初の投稿は、1月1日より改正された育児介護休業法についてです。

 

 子の看護休暇と介護休暇について、従来までは「1日もしくは『半日単位』」の取得に限られていましたが、これが「1日もしくは『時間単位』」の取得が可能となりました。

 また従来は1日の勤務時間(所定労働時間)が4時間以下の労働者は取得の対象外でしたが、時間単位の休暇が取得可能になったことにともない、すべての労働者が対象となります。

 

 実務的には、この改正にともない2点検討する部分が出てきます。

 

 ひとつは、「中抜け」の問題です。

 改正法では、「始業時間から連続してとる」ことと「終業時刻まで連続してとる」ことを義務付けており、就業時間の間での取得までは義務付けていません。

 中抜けを認めることは改正法を上回る取り扱いのため法的には問題ありません。運用を認める場合には育児介護休業規程への落とし込みが必要になります。

 

 もうひとつは、「端数時間」の取り扱いです。

 時間単位の休暇取得が可能になったことで、1日の所定労働時間の一部を休暇にあてた場合、残った時間に1時間未満の端数が生じることがあります。

 

 この取り扱いについては、改正法Q&Aに記載があります。

【問14】

時間単位で看護・介護休暇を取得する場合、何時間分の休暇で 「1日分」の休暇となるか。

(答)

  •  (子の)看護・介護休暇を日単位で取得するか時間単位で取得するかは、労働者の 選択に委ねられるものである。
  •  時間単位で(子の)看護・介護休暇を取得する場合は、休暇を取得した時間数の合 計が1日の所定労働時間数()に相当する時間数になるごとに「1日分」 の休暇を取得したものと扱う。この場合、1日の所定労働時間数に1時間に 満たない端数がある場合には、端数を時間単位に切り上げる必要がある。

 

 例えば、1日の所定労働時間が7時間30分の場合は、端数の30分を切り上げて「8時間」が1日分の休暇となります。このケースで7時間の子の看護休暇を取得した場合には、「1時間」の残時間数となります。(8時間-7時間)

  子の看護休暇と介護休暇は原則年間5日分の取得ができますが、上記の場合、残りの日数・時間数は「4日+1時間」の取得が可能となります。

 

 休暇が細切れになることで管理も煩雑になることが想定されますので、社内の追跡方法を検証することも必要になるでしょう。

 

 改正法の詳細は、こちらの厚労省のサイトもご参照ください。

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html