Mikura Labor & Social Security Attorney Office

みくら社会保険労務士事務所

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無期雇用転換制度と有期労働契約特別措置法

令和2年12月14日

 平成254月に労働契約法が改正され無期雇用転換制度ができた当時、定年前後の有期契約労働者の処遇について、各企業では様々な模索が検討されていました。

 

いわく第2定年制度の創設、いわく通算契約期間の制限、等々。

 

この問題を受けるかたちで平成27年4月に「専門的知識等を有する有期労働契約者等に関する特別措置法」、いわゆる有期特措法が施行されました。

 

 無期転換権を行使できるようになる「通算5年ルール」について、有期特措法に定める2つのケースの場合には、無期転換ルールが適用されない特例の規定が設けられました。

 

  • 「5年を超える一定期間のうちに完了することが予定されている業務」に就く高度専門知識等を有する有期雇用労働者(年収1,075万円以上)
  • 定年後に有期労働契約で継続雇用される高齢者

 前者を第1種特定有期労働者といい、後者を第2種特定有期労働者といいます。

 この特定の適用を受けるためには、管轄の労働局の認定を受けるための申請を行うことになっていますが、いずれにせよこれにより60歳以上の契約社員の処遇に一定の方針が定まったかに見えました。

 

 ところが、この第2種特定有期労働者には条件があり、有期契約特別措置法第2条第2号で、次のように規定しています。

定年(60歳以上のものに限る。以下同じ。)に達した後引き続いて当該事業主(略)に雇用される有期雇用労働者」

 

 この認定を受けることができるのは、定年前から引き続いて雇用された労働者が定年を迎えて、引き続いて同じ事業主に再雇用されたケースに限定されています。

 

 60歳以上の労働者を新規に契約社員として雇用するケースや60歳手前(例えば58歳や59歳など)で契約社員として雇用して定年年齢をまたいで、60歳以降も有期契約を更新するケースなどは適用されないことになります。

 

 近年はこのような雇用形態も増加傾向にあると思われるのですが、第2種認定の対象として想定される、いわゆる正規のルート(正社員⇒定年⇒定年再雇用)を経た社員群との整合性を図る必要に迫られています。

 そこで振出しのような、第2定年制度の創設や通算契約期間・更新回数の上限設定で解決しようとする企業もあるようです。

 

 しかし、改正労契法施行から5年が経過した平成304月に無期契約転換申し込みの権利を最初に持つ「第1世代」が世に出始めたころから雇止めの有効性を争う裁判が出始めました。

 

 最近では日本郵便事件(H30.9.4最高裁判決)や博報堂事件(R.2.3.17福岡地裁判決)などがあります。

 

 通算契約期間・更新回数の上限を設定すること自体は法令上の制限(労基法第14条等)に抵触しない限り、労使の合意にゆだねられてはいますが、無期雇用転換制度や高年齢者雇用安定法の主旨に反しない運用が実務的には重要になってきます。

労働契約法第20条とパートタイム・有期雇用労働法第8条

令和2年11月19日

 10月、同一労働同一賃金をめぐって争われた裁判で、最高裁判所が立て続けに判決を示しました。(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件)

 

 これらの裁判は、結果的には働き方改革関連法の改正スケジュールと並行して進んだ経緯もあってか、4月に大企業を先行として施行されたパートタイム・有期雇用労働法の改正内容にも影響を及ぼし、また同改正法は来年4月には中業企業にも適用されることから、運用解釈のよりどころとして判決を分析している企業も多いように見受けられます。

 

 しかし、今回の裁判は「20条裁判」と俗に言われるように労働契約法第20条に定める規定に基づいて行われたものでした。

 この労契法第20条は、働き方改革関連法の改正によって、改正パートタイム・有期雇用労働法第8条に「お引越し」をしました。

 そのため厳密には「旧」労働契約法20条といったほうが良いかもしれません。

 

 両者の条文を比較してみましょう。

 

【旧労働契約法第20条】(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

【改正パートタイム・有期雇用労働法第8条】(不合理な待遇の禁止)

 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

 

 おおむね同じ内容で構成されているといえそうですが、個人的に気になるのは2か所の下線部分です。

 

 まず「労働条件」が「基本給、賞与その他の”待遇”」という表現に変わったところです。

 主旨としては同じ意味合いなのですが、「同一労働同一賃金ガイドライン」では、「待遇」について「すべての賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用のほか、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等労働時間以外のすべての待遇が含まれること」としています。

 「労働条件」よりは幅広い印象も受けます。

 

 もう一か所の下線部分について、旧労契法第20条では、①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情で考慮するとだけあります。

 一方、改正パートタイム・有期雇用労働法第8条では①~③のうち、「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの」を考慮するとあります。

 この部分は改正前のパートタイム労働法第8条にも記載がなく、今回の改正で加えられた文言になります。

 

 条文を素直に読めば「①~③のうち、下線部分に該当するもの」を考慮の対象とする。言い換えると①~③のすべてが対象になるわけではないとも読み取れます。

 

 あくまで今回の裁判は旧労契法第20条をもとに争われたもので、改正後のパートタイム・有期雇用労働法第8条が争点になっているわけではありません。

 この部分の解釈は今後の判例等を待たざるを得ないところがあります。

 

 もちろん今回の最高裁判決は、改正後のパートタイム・有期雇用労働法の条文の趣旨をくみ取った内容であると思われます。実務上、相当程度の影響力を持ち判断材料として重視することは当然です。

 その一方で、今後改正法をもとに裁判が行われた場合、まったく同じ結論が出てくるかどうかは不透明なところもあります。

雇用保険の給付制限期間

令和2年10月19日

 会社を退職して次の再就職先を見つけるまでの生活費や転職活動の費用として雇用保険、いわゆる失業保険があります。

 

 会社を退職したときの理由によって、失業保険の受給開始時期が異なっていて、自己都合退職の場合は3か月間の”おあずけ”期間(給付制限期間)がありました。※整理解雇など会社都合退職の場合は給付制限期間はありません。

  

 もともと給付制限期間は雇用保険法33条第1項で「1か月以上3か月以内」と定められており、厚生労働省が定める「業務取扱要領」で3か月間としてきました。

 これが2カ月間に短縮されます。ただし一部条件が付きます。

 

① 給付制限期間が短縮されるのは5年間で2回まで

② 自己の責めに帰すべき重大な理由で退職した場合は給付制限期間は3ケ月のまま

③ 給付制限期間が短縮されるのは2020年10月1日以降の退職

  

 ①は、例えば、5年間で3回以上会社を退職して失業保険を受ける場合、3回目以降の退職については給付制限期間が3ケ月になります。

 実務的には、退職が発生した時点で過去5年間を遡及して何回離職しているかをカウントします。

 上記「業務取扱要領」によると、求職の申し込みをした時点で、この規定上の退職(法律上は「離職」といいます)とカウントする取扱いのようです。

 

 ②の自己の責めに帰すべき重大な理由とは、重責解雇などのケースが想定されます。

 そして③については、今年の9月30日までに退職した人はこの制限短縮の対象から外れて、従来通り給付制限期間は3ケ月となります。

 

 所定給付日数が多いケースだと影響してくる可能性もあるところですので運用上の取り扱いをおさえたいところです

 

 厚生労働省ホームページでもご確認いただけます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/data/toriatsukai_youryou.html

懲戒と辞令

令和2年9月23日

 会社が従業員に出勤停止を行うとき、それが懲戒に基づくものか辞令に基づくものかが問題となるケースがあります。

 

 労働者に就業を行わせないということでは同じことですが、その拠り所が異なることもあるため整理が必要です。

 

 懲戒処分として出勤停止を行う場合には、懲戒の原因となる事由が存在していることになります。

 よって会社としては、懲戒処分を行う場合には、就業規則によって規定を設けることが求められます。

 では、就業規則によって出勤停止となる懲戒理由が規定されていれば、会社が自由に、無制限に処分を行えるかというとそうでもないところがあります。

 

 労働契約法15条には、次のような規定があります。

 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」

 

 もともと会社と労働者は私人間の契約関係にあるため、一方が他方にある種の「刑罰」を行うには、根拠規定があり、懲戒処分を行う理由があり、処分の程度が懲戒の理由と照らして相当であることを求めています。(加えて懲戒処分を行うまでの手続きが問題になるケースもあります。)

 

 一方、辞令で自宅待機命令を行う場合もあります。こちらも実体的には懲戒処分となるような問題行為が疑われ、その事実確認や調査のために発令されることが多いので外形的には懲戒処分のようにもみえますが、企業秩序保持や服務上の必要性を拠り所とした業務命令によるものとなるため、自宅待機中の賃金が支払われていれば就業規則の明示を必須としないという考え方があります。

 

 もちろん自宅待機命令にしても相当の理由がなければ権利濫用の問題がついて回るため、実務的には就業規則に明示しておくことが望ましいことはいうまでもありません。

 

 会社が従業員に休業を指示した場合、それが懲戒処分として行っているか、業務命令として行っているかがあいまいになっていると運用が規定上の取り扱いと食い違ってくるケースがあるため、どちらで行っているのかについて自覚的であることが求められます。

標準報酬月額の特例改定

令和2年8月11日

 日本年金機構は、6月28日、今年度の定時決定(算定基礎届)に関する緊急特例措置として「標準報酬月額の特例改定」制度を発表しました。

https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/0625.html

 

 新型コロナウィルス感染症による影響で休業(短時間休業を含みます)を余儀なくされた被保険者に対して、標準報酬月額の随時改定(月額変更届)の特例措置を認めるものです。

 

 特例措置が認められるための主な条件は次の内容です。

  1. 事業主が新型コロナウイルス感染症の影響により休業させたことにより、報酬が著しく低下した月(急減月)が生じていること
  2. 急減月に支払われた報酬の総額に該当する標準報酬月額が、既に設定されている標準報酬月額に比べて、2等級以上低下していること
  3. 本特例改定による改定を行うことについて、本人が書面で同意していること
  4. 休業のため報酬が急減した月及びその前2か月の報酬支払基礎日数が17日以上であること 

 

 これらは、通常の随時改定と比較して異なる取り扱いがそれぞれあります。

 

 「1.」について、通常の随時改定は基本給などの「固定的賃金」の変動があることが条件になっていますが、特例改定は固定的賃金の変動がなくても報酬の低下があれば①の条件を満たす取り扱いになっています。

 

 「2.」については、通常の随時改定では固定的賃金の変動後3か月間の平均額で2等級以上の変動があることが条件ですが、特例改定は、4月から7月において、報酬が低下した単月の額のみで2等級以上の低下があれば認めることになっています。

 

 そして「3.」について、通常の随時改定は本人の同意なく行われるものですが、特例改定は本人の同意が必要です。これは標準報酬月額が改定されることによって、健康保険や厚生年金の保険給付額・年金額に影響が出ることを踏まえての取り扱いです。

 

 また「4.」については、通常の随時改定は固定的賃金の変動後3か月間の報酬支払基礎日数が17日以上であることが必要ですが、特例改定は急減月及びその前2か月の報酬支払基礎日数で判断することになります。例えば4月入社の新入社員等は、この条件を満たせないケースがあるため特例改定が行われないことがあります。

 

 改定条件とは別に届出期限についても通常の随時改定とは異なり、令和3年1月末までのがあります。※令和3年1月31日は休日のため、実際の期限は令和3年2月1日となります。

 

 4月から7月までの間で報酬が急減した被保険者が対象となりうるため、特例改定の改定月は5月から8月ということになります。

 

 特例改定の趣旨は、定時決定までの臨時救済措置として行うものであるため、5月か6月に特例改定が行われた場合には、算定基礎届も提出する必要があります。

 

 7月または8月に特例改定が行われた場合には、通常の随時改定と同じく来年の定時決定まで特例改定による標準報酬月額が設定されることになりますが、その間で休業が解消したときには、通常の随時改定の対象になるケースが生じます。

 

 まれなケースとして通常の随時改定と特例改定の両方に該当する月が発生することがあります。特例改定は本人の同意が求められますので、どちらを選択するか会社と本人とで話し合うとよいでしょう。

 

 特例改定を行うことができるのは同一被保険者について1回限りです。例えば4月に2等級低下し、5月にさらに2等級低下した場合のようなケースでは、どの月を特例改定として届出するかを選択することになります。

 

 なお、特例改定にあたり報酬の急減月において報酬が支払われず、被保険者が「休業支援金・給付金」を受けている場合、報酬から除外して届出を行うことになります。

休日の振替(振休)と代休

令和2年7月23日

 しばしば労務管理の面で混同されがちなものに休日の振替(振休)と代休があります。いずれも労働日と休日を変更するものであるところは同じです。

 

 しかしながら、労働基準法上の解釈では明確に区分されています。

 振休とは、あらかじめ労働日と休日を振替する日を特定して入れ替えることになります。振り替えた労働日は休日となり、休日は労働日となります。

 

 一方代休は、事前に労働日と休日を入れ替える予定がないまま休日労働を行ったあとに、その代償として代わりの休日を付与するものです。

 

 結果的には、いずれのケースも労働日数と休日日数が同じであるため、実態としては同じ効果が現れていることになりますが法的な位置づけでみると様相が異なってきます。

 

 振休は事前に労働日と休日を入れ替えているため、4週4日の休日が確保されていれば労基法上の休日労働に関する規定は適用されません。一方代休は休日労働を行っている時点では代わりの休日が確定していないため休日労働に関する規定が適用されます。(もっとも振休の場合でも、その週の労働時間が法定労働時間を超えてしまった場合には、時間外労働や割増賃金の規定が適用されることになります。)

 

 労働基準法に定める休日の規定は、あくまで法定休日(週1日)に関する取扱いです。週休2日制度が主流の時代になるにつれて、いわゆる所定休日と法定休日の位置づけが、あいまいになってしまっているケースも見受けられます。

 

 そもそも代休は付与することが義務づけられているわけではありませんので、休日労働の対価(割増賃金)が補償されていれば、そこから先の取り扱いについて定めもありません。

 逆に言えば、法令上の規定がない部分にこそ運用上の疑義が生じやすいところでもあります。代休制度を導入するの場合、取得時期や申請期限、賃金の取り扱いなどの内容によって、給与計算の処理方法も変わってきます。

 

 就業規則に具体的な取り決めを定めておくことが重要です。

休業手当を含む算定基礎届と月額変更届

令和2年6月23日

 年に1度の労働社会保険の申告手続きの時期がやってきました。新型コロナウイルスの影響を受けて、特例措置が発表されています。

 

 労働保険(年度更新)の申告納付は例年7月1日~7月10日までですが、今年は8月31日まで延長されました。

 

 社会保険の申請手続(算定基礎届)については今のところ延長措置は発表されておらず、例年どおり7月1日から7月10日までが手続期間となっています。

 今年の算定基礎届において実務的に注意が必要になってくるのは、雇用調整助成金の活用により休業手当を支払っている場合です。

 

 算定基礎届は4月~6月に支払われた賃金額の平均額で9月以降の標準報酬月額を決定する仕組みになっています。標準報酬月額は毎月の給与から控除する社会保険料のもとになるものですが、今年の場合、集計期間に休業手当が支払われているケースが多いと思われます。

 

 行政通達では取り扱いについて次のように定めています。

「標準報酬月額の定時決定の対象月に一時帰休に伴う休業手当が支払われた場合においては、その休業手当等をもって報酬月額を算定し、標準報酬月額を決定する。ただし、標準報酬月額の決定の際、既に一時帰休の状況が解消している場合は、当該定時決定を行う年の9月以後において受けるべき報酬をもって報酬月額を算定し、標準報酬月額を決定する。

 

 黄色の部分がポイントになりますが「標準報酬月額の決定の際」とは7月1日を指します。「既に一時帰休の状況が解消している場合」とは休業手当が支払われておらず、通常の賃金に戻っていることを意味します。 

 実務的には、「7月支払」の給与(どの月分かを問わず実際に7月に支払われた給与に休業手当が含まれていなければ「一時帰休の状態が解消」されている取り扱いになります

 「9月以後において受けるべき報酬をもって報酬月額を算定し、標準報酬月額を決定する。」の部分がちょっとわかりにくいのですが、要約すると休業手当が含まれている月を除いて計算するという意味になります。

 

 つまり4月~6月のいずれかの月に休業手当が支払われていた場合、次のような取り扱いとなります。

  • 7月支払の給与にも休業手当が支払われていたとき⇒4・5・6月の給与の平均で算定
  • 7月支払の給与には休業手当が支払われていないとき⇒4・5・6月の給与のうち休業手当が含まれている月を除いた月の給与の平均で算定

 

 では、4月~6月のすべての月に休業手当が支払われていた場合はどうなるかという問題がありますが、その前に随時改定(月変)の取り扱いに触れます。

 

 随時改定は固定的賃金の変動があった場合に算定を待たずに年度の途中で標準報酬月額を改定する手続きですが、休業手当の支払いはこの「固定的賃金の変動」に該当します。

 算定と同じく月変にも行政通達があります。

「一時帰休に伴い、就労していたならば受けられるであろう報酬よりも低額な休業手当等が支払われることとなつた場合は、これを固定的賃金の変動とみなし、随時改定の対象とする。ただし、当該報酬のうち固定的賃金が減額され支給される場合で、かつ、その状態が継続して3か月を超える場合に限る(後略)」

 

 再びポイントは黄色部分になります。

 「低額な休業手当等」が支払われ「固定的賃金が減額される場合」とありますので、いわゆる全額補償の休業手当は対象外といえそうです。

 そして「その状態が継続して3か月を超える」というところが通常の随時改定と異なるところです。通常の月変は固定的賃金の変動が1か月でも、その後3か月の平均が2等級以上差が生じれば該当しますが、休業手当の随時改定の場合は休業手当が連続4カ月支給された時点で該当させるという取り扱いになります。(集計期間は最初の3か月)

 

 これを踏まえて、4月~6月のすべての月に休業手当が支払われていた場合の取り扱いは、次のようになります。

  • 7月支払の給与にも休業手当が支払われていたとき⇒4・5・6月の平均で7月改定
  • 7月支払の給与には休業手当が支払われていないとき⇒従前の等級で決定

 下段のケースは休業手当が支給されていない月がないため、結局すべての月が対象外となり従前の等級で決定される考え方となります。

 

 こう考えると休業手当が支払われた場合は、4か月間は給与状況を追跡する必要が出てくることがありそうです。

 

 日本年金機構のサイトに動画説明がアップされていますので併せてご参照ください。

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/santeisetsumei.html

新型コロナウイルス対策の労働社会保険料の猶予

 令和2年5月12日

 新型コロナウイルスの影響による事業活動の縮小を受けて、政府は社会保障・税・金融の各分野で対策措置を連日講じ続けています。

 

 労働保険や社会保険の分野では保険料の申告納付を猶予する救済措置が発表されました。

 

 労働保険料は毎年6月1日から7月10日までが申告納付期間となっていますが、これが今年は8月31日までに延長されました。

 さらに、次のすべての条件を満たした場合には最長1年間、労働保険料の納付が猶予される救済制度を設けました。

 

  1.  新型コロナウイルスの影響により、令和2年2月以降の任意の期間(1か月以 上)において、事業に係る収入が前年同期に比べて概ね 20%以上減少していること 
  2. 「1」により、一時に納付を行うことが困難であること
  3. 申請書(「労働保険料等納付の猶予申請書(特例)」)等が提出されていること 

 

 令和2年2月1日から令和3年1月 31 日までに納期限が到来する労働保険料が対象となります。令和2年2月1日から令和2年6月 30 日までの間に納期限が到来している労働保険料等について は、令和2年6月 30 日までが申請期限となります。

 

 社会保険料の納付猶予については、日本年金機構が厚生年金保険料の納付猶予措置を発表しています。条件や手続きは、いずれも労働保険料に似た内容になっています。

 

  1. 令和2年2月以降の任意の期間(1か月以上)における、事業等に係る収入が、前年同期に比べて20%以上減少していること
  2. 厚生年金保険料等を一時に納付することが困難であること 
  3. 申請書(「納付の猶予(特例)申請書」)等が提出されていること

 

 令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する厚生年金保険料が対象となります。令和2年2月1日から令和2年4月 30 日(特例施行日)までの間に納期限が到来している厚生年金保険料(令和2年1月分から3月分)は、令和2年6月 30 日までが申請期限となります。 

 

 事業収入条件については、売上等が落ち込んだことを証明できる帳簿類等もあわせて揃えることになります。

 

 健康保険料については協会管掌の会社の場合は各都道府県の協会けんぽ、組合管掌の会社の場合は、加入している健康保険組合ごとの取り扱いとなります。

 

 詳細は、厚生労働省や日本年金機構のサイトでもご確認することができます。

 厚生労働省(労働保険料):https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10647.html

 日本年金機構(厚生年金保険料):https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/20200501.html

休業手当と平均賃金

 令和2年4月7日

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で事業縮小を検討している企業が急増しています。その影響で休業手当に関するご相談が目立ち始めました。

 

 休業手当は労働基準法26条に規定されていて、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」とあります。

 

 問題になっているのが「使用者の責めに帰すべき事由」についで、今回の場合が使用者の責めに帰すべきケースになるのかどうかという判断です。

 

 明確な指針は、今後の発表を待たざるを得ないところがありますが、使用者責任が問われないケースは、通常想定しているよりも相当高い不可抗力水準を求めています。

 

 古い通達(昭23.6.11基収1998号)ですが、経営障害による休業について一例をあげています。

【問】

親会社からのみ資材資金の供給をうけて事業を営む下請工場において、現下の経済情勢から親会社自体が経営難のため資材資金の獲得に支障を来し、下請工場が所要の供給をうけることができずしかも他よりの獲得もできないため休業した場合、その事由は法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」とはならないものと解してよいか。

【答】

質疑の場合は使用者の責めに帰すべき休業に該当する

 

 実際に休業手当を支払うことになった場合、「平均賃金の6割以上」を補償することになるわけですが、「平均賃金」は、算定事由の発生した日以前3カ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(歴日数)で除した金額をいいます。起算日は、賃金締切日がある場合、直前の賃金締切日から3か月間で計算します。

 

 平均賃金に銭未満の端数が生じた場合は、切り捨てることができます。休業手当の額に円未満の端数が生じた場合は、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上の端数は1円に切り上げることができます。※この取り扱いより有利な端数処理も認められます。

派遣労働者の同一労働同一賃金(8)

 令和2年3月30日

 派遣労働者の同一労働同一賃金も新年度を間近に控え、労使協定を締結して一段落といったところかと思われます。 

 

 確かに協定の作成と締結が今改正のヤマであることは間違いないのですが、その他に改正に対応する内容がなくもありません。

 

 実務的には2点抑えたいところがあります。

  1.  派遣先への情報提供項目の追加
  2. 契約書への記載項目の追加

 

 「1.」について、派遣元会社は派遣先会社に対して新たに情報提供する項目が追加されました。

  • 労使協定方式による労働者派遣であるか否か
  • 労使協定方式により派遣される職種
  • 労使協定の有効期間

 

 もともと派遣元会社は派遣労働者の数やマージン率等の情提供義務があり、今回の改正で上記の項目が加わりました。

 改正の主旨として、派遣先の立場からすると労使協定方式で、どの職種をいつまでなら受け入れることができるかを確認する必要があります。対象となっていない職種や協定の有効期間外に労働者派遣を受け入れた場合には、均等・均衡方式の取り扱いになってしまうためです。

 

 「2.」についても、派遣元・派遣先で労働者派遣契約を締結する際に追加された項目があります。

  • 業務にともなう責任の程度
  • 派遣労働者を労使協定方式に限定するか否か

 

 「業務にともなう責任の程度」とは、例えば派遣就労にともない管理職などの身分で部下など引率して業務につくかどうかを確認するものです。

 

 労働者派遣業の実務では、派遣元・派遣先の間で取り交わされる契約として、最初に包括的な条項を盛り込んだ「基本契約書」と実際に派遣労働者の就労が決まった段階で個別の待遇や条件を定めた「個別契約書」をそれぞれ取り交わすのが一般的です。 

 

 ときどき「上記の契約事項は基本契約書と個別契約書のどちらに盛り込めばよいか?」というご質問を受けることがあります。

 

 労働者派遣法では、契約書といった場合に基本契約書と個別契約書を分ける考え方がそもそもないため、いずれかに盛り込まれていれば良いということになるわけですが、実務的には個別契約書に入れておいたほうが運用はスムーズになるかと思われます。

 

 はからずも連載化した派遣労働者の同一労働同一賃金も今月で一区切りになります。次回以降は、また旬なテーマを採りあげていければと思っています。

派遣労働者の同一労働同一賃金(7)

 令和2年2月4日

 昨年暮れ、厚生労働省は派遣労働者の同一労働同一賃金について「均等・均衡方式Q&A」を公表しました。 

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

 

 ほとんどの企業が労使協定方式を採用している大勢であるため、実務的に内容を精査するには至らないかもしれませんが、その中でも気になったところが1つだけあります。

 

 労使協定方式を採用した場合でも「福利厚生」と「教育訓練」に関する部分は派遣先企業の通常労働者と均等・均衡待遇を確保する必要があります。

 

 Q&A集のなかにこれらの取り扱いについての疑義問答が掲載されていました。(福利厚生施設、就業環境の確保等)

 

【問4ー1】

 ある派遣労働者の従事する業務には更衣室が必要なく、当該業務に従事している通常の労働者も同様の実態にある場合には、他の業務に従事している通常の労働者が更衣室を利用しているからといって当該派遣労働者に更衣室の利用の機会を与える必要はないという理解でよいか。 

【答】

 貴見のとおり、当該派遣労働者に更衣室の利用の機会を与える必要はないことが通常であること。

 

 比較対象労働者の概念はあくまで「同種」の業務に従事している通常の労働者ということが読み取れます。

 さらに福利厚生施設に関してもう一つ掲載されています。

 

問4―2

  法第 40 条第3項の福利厚生施設の利用機会の義務について、派遣先は派遣労働者に対して、「給食施設の料金」を通常の労働者と同じ条件で利用させなければならないのか。 

 また、給食施設の料金を同じにする場合に費用負担が発生することが想定されるが、派遣元事業主と派遣先のどちらが負担するのか。 

答】

 法第 40 条第3項の福利厚生施設(食堂、休憩室、更衣室)については、派遣先が「利用の機会を与えなければならない」と規定されており、ご指摘の「給食施設の料金」が同額でないという事実のみをもって当該規定に違反することとはならない。 

 ただし、派遣先の労働者と派遣労働者で「給食施設の料金」の差が大きいことなどにより、結果として、派遣労働者が給食施設を実質的に利用できない状況となっている場合には、派遣先の義務違反となり得る。 

 一方、「給食施設の料金」は、法第 30 条の3(派遣先均等・均衡方式)の待遇に含まれるため、派遣元事業主は「給食施設の料金」について、派遣先の通常の労働者との間の均等・均衡を確保しなければならない。 

 このため、派遣先は、派遣料金の設定に際して、派遣労働者に係る「給食施設の料金」の負担分を考慮するなどして、義務違反とならないよう適切にご対応いただくことが必要。 

 

 考え方として、派遣先企業の労働者と派遣労働者との間で食堂の料金に差があること自体は違反するものではないが、その格差が実質的に食堂を利用しえない状態になっている場合は違反となる可能性がある。料金格差がある場合、一義的には派遣元会社に対応義務があるが、派遣先にも一定の協力が求められる、といった内容となります。

 

 最近では部外者でも社員食堂が利用できる施設も増えてきているようですが、派遣労働者は法改正上は、自社の社員に近い存在として待遇することが求められることになります。

派遣労働者の同一労働同一賃金(6)

 令和2年1月16日

 年も明け、年度末に向けて、派遣労働者の同一労働同一賃金にかかる法改正対応も終盤に差し掛かってきました。 

 時期的には労使協定の内容をかためて、締結の準備に入ろうとしている企業が多いように思われます。

 

 労使協定を締結する際のポイントは「過半数従業員代表者の選出プロセス」と「労使協定の締結単位」が考えられます。

 

 過半数従業員代表の選出プロセスは、原則的に36協定の選出プロセスの考え方が踏襲されます。簡単に言ってしまうと民主的方法により管理監督者でない者から選ばれた者ということになります。

 

 本社以外に支社や営業所など全国に拠点がある会社の場合は、選出にあたっての周知方法で頭を悩ませることがあるかもしれません。労使協定方式Q&Aでは、次のような方法を提示しています。

 

【問1ー4】

 派遣労働者は各々異なる派遣先に派遣されており、労使協定を締結する過半数代表者の選出 が困難であるが、どのように選出すればよいか。

【答】

 例えば、派遣労働者の賃金明細を交付する際や派遣元事業主が派遣先を巡回する際に、労使協定の 意義や趣旨を改めて周知するとともに、立候補の呼びかけや投票用紙の配付をしたり、社内のイントラ ネットやメールにより立候補の呼びかけや投票を行わせることが考えられる。(後略) 

 

 労使協定の内容はもちろんながら、過半数従業員代表の選出プロセスが適切でない場合にも、均等・均衡方式が適用されるため注意が必要です。

 

 一方、労使協定の締結単位については原則として「派遣元事業主単位」または「事業所単位」と限定されており、36協定の締結単位とは考え方が若干異なります。ただし、例外的に複数の事業所でもって労使協定の締結単位とすることが認められています。

 

問1―3

 数か所の事業所を労使協定の一つの締結単位とすることは可能か。(例:関東地方に所在する 事業所で労使協定を締結)

答】

 差し支えない。 ただし、待遇を引き下げることなどを目的として、数か所の事業所を一つの締結単位とすることは、 労使協定方式の趣旨に反するものであり、適当ではなく、認められないことに留意すること。(後略)

 

 労働者派遣事業を全国展開している会社の場合を想定していて、たとえば全国をいつくかのブロック単位で区分して労使協定の締結単位とするような形をとることができます。ただし、この場合でも地域指数は派遣先事業所の地域指数が適用されるため、労使協定には派遣先ごとの地域指数を掲載するか、そのブロックで最も高い地域指数を採用するかの選択になります。

 

 適正な締結単位によらない労使協定方式の場合にも、その有効性に疑義が生じてしまうと均衡・均等法式による待遇確保が求められるケースが生じます。あわせて留意が必要なところです。