令和5年12月15日
新型コロナウイルス感染症が5類に移行してから経済活動が再開している足元で、税や社会保険料の滞納を理由とした差し押さえを受けている企業が急増しています。
報道等によると、今年度の上半期(4~9月)の差し押さえ件数は約26,300社で、令和4年度の1年分(約27,800社)に並ぶ件数に伸びているそうです。
背景として指摘されているのは、3年前のコロナ禍の時期に導入されたゼロゼロ融資の返済が開始されていることと、昨今の物価高による原材料費の高騰が影響しているのではないかとされています。
さらに健康保険料や厚生年金保険料については、同じくコロナ禍において保険料の特例納付猶予制度が導入されていました。当時ブログでも取り上げましたが(令和2年5月12日投稿)、こちらも猶予期限の到来にともなって納付が再開されている状況です。
税や社会保険料を総称して「公租公課」といいますが、事態はその滞納・差し押さえを契機として企業が倒産に追い込まれる「社保倒産」に波及しているようです。
法人が納付する社会保険料には健康保険料(+介護保険料)と厚生年金保険料(+子ども子育て拠出金)がありますが、納付の猶予制度は存在するものの、個人が納付する国民年金保険料とは異なり減額や免除制度はありません。
猶予期間が経過した企業に対しては納付の督促が行われ、それでも保険料が徴収できない場合には財産の差し押さえが行われます。
社会保険料が医療・年金受給者の原資になっていることからも、安易な保険料の減免措置が行われることは、社会保障制度全体の公平性や信頼感を損なうことになります。
その一方で行政機関と金融機関が情報を密接に連携・共有することで社保倒産を回避できるのではないかと指摘する声もあります。
事業の継続や再生が期待できる企業までが一時的な社会保険料負担で廃業してしまうと、雇用や地域経済に影響を及ぼしてしまうことも懸念されています。
企業が存続することによって、長期的に見れば社会保険財政も安定していく側面も一考する余地があるように感じます。
社会保険料の納付猶予制度については、こちらのサイトで公開されています。
【社会保険料の納付の猶予・換価の猶予】
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/20120330-02.html
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/kankayuyo.html
今年も事務所ブログをご覧いただきありがとうございました。年内最後の投稿ということで明るい話題を採り上げたかったのですが、来年は前向きなテーマを意識したいと思います。
令和5年11月16日
テレワーク勤務が浸透したことで社外の労働時間が増えていて、人事労務担当者から「労働時間の把握が困難になってきている」というご相談を受ける機会が多くなりました。
事前に会社が承知していない夜間労働などもみられるケースが発生したりしていて、真に労働時間として認定するべきかどうか判断に悩むことも少なからずあるようです。
残業を事前申告制や許可制にしている企業でも無許可・未届の残業についてヒアリングすると、本人から「クライアントの要望により対応した」と説明を受けた場合には、無下にもできず事後承諾するしかない実態もあります。
深夜残業や長時間労働については、裁量労働制や管理監督者など通常の労働時間管理の枠外で働く労働者に見受けられます。業務の性質上やむを得ない部分もありますが過重労働防止の観点から業務の進め方を見直すことも必要だと感じています。
会社の基本方針として夜間対応を従業員に求める必要があるのか、というそもそものところから検証する必要もあるでしょう。業務上必要または不可避であれば、労働時間として勤怠管理の方法を整備していくことになります。割増賃金などの人件費も予算付けしなければなりません。
一方、夜間や休日などの顧客対応を義務付けないのであれば、制度面と運用面で周知徹底していくことが求められます。会社としては義務付けていなくても実態として夜間休日対応していたということになると黙認していたことにつながる可能性もあります。
近年ではITツールやSNSを活用することで従業員がクライアントと直に接触する密度も濃くなっています。会社が労働時間を把握することがより複雑になっていくことが予想されます。
勤務時間外の顧客対応は従業員の健康リスクを高める統計も示されています。また9月には「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が改正され、いわゆるカスタマーハラスメントが認定基準の具体的出来事に追加されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34888.html
企業としては近年提唱されている「つながらない権利」も意識した労働時間管理の社内ルールを構築していくことが重要になってくるでしょう。
令和5年10月18日
来年4月に施行される裁量労働制の改正を控えて、厚生労働省は「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A」を公表しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/001130424.pdf
Q&Aは、以下の項目別に構成されています。
Q&Aの内容を理解する上での予備知識が必要になるものの、現時点で実務的に注目されるのは1.と3.の事項かと思われます。
まず「1.同意及び同意の撤回」については、同意を取るにあたって制度の概要を説明することが求められますが、その概要のなかには、みなし労働時間が含まれることが明示されています。また、「同意の撤回は認めない」ルールを盛り込むことは不可である旨も示されました。
つぎに「3. 健康・福祉確保措置」については、労働時間の把握にあたっては「タイム カードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用 時間の記録等の客観的な方法その他の適切なもの」を用いての方法を原則として、「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合においては、労働者の自己申告」による把握を認めるとしている者の、直行直帰が多い業務に従事する労働者でも外出先からシステムにアクセスできるような状態であれば自己申告は認められないとされているため、実質的に自己申告方式の導入の余地はないように感じられます。
また健康福祉確保措置で勤務間インターバル制度を導入する場合には11 時間以上とし、深夜業の回数を設定する場合には、1箇月当たり4回以内と示されていることを参考にした上で、設定することも例示されています。
裁量労働制の改正事項は、他にも運用上まだ判断しきれない内容もあるため、第2段以降のQ&Aの公表も待望したいところです。
令和5年9月14日
労働安全衛生法では、常時10人以上50人未満の企業で(安全)衛生推進者を選任することが義務づけされています。
選任するのが安全衛生推進者か衛生推進者であるかは業種によって決められており、その業務についても法令で定められています。
(安全)衛生推進者は、安全衛生に関する一定の実務経験がある者から選出する必要がありますが、法令で定める一定の講習を受けることによって資格を満たす方法もあります。
人数要件は事業場単位で判断されるため、本社以外の支店や店舗、営業所で規模要件を満たせば、そこでも選任することになります。(安全)衛生推進者は、事業場に専属する者から選任することになります。
規模要件を満たしてから14日以内に選任することが求められていますが、産業医や安全管理者、衛生管理者のように労働基準監督署への届出義務はなく、事業場の見やすい場所に掲示する方法などで周知すればよいとされています。
(安全)衛生推進者の業務のひとつに、「健康診断及び健康の保持増進のための措置」に関するものがあります。
毎年実施する定期健康診断は、50人以上の会社の場合その結果を報告することになっています。(定期健康診断結果報告書)
あわせて企業には個人単位で健診結果を5年間保存することになっています。(健康診断個人票)
50人未満の会社には行政への報告義務がないため、個人票の保管義務については結果報告書とは異なり規模要件がないのですべての会社が対応することになります。
企業によってはプライバシーの観点から従業員の健康情報を収集することに抵抗を覚えることもあるかと思われますが、会社には安全配慮義務があり、定期健康診断は労働者にも受診義務があるとされています。
法定健診であることから原則的に受診費用も企業負担とされているため、(安全)衛生推進者を通じて従業員の理解を得るように進めていくとよいでしょう。
現実問題としてプライバシー保護を理由に従業員の同意を得られないケースもあるかもしれません。
同意なく受診結果を回収することも労務管理上好ましくないところです。どうしても同意が得られない場合には、その経緯を記録保存しておくことぐらいしか対応がないと思われます。ただし、同意を得られなかったとしても保管義務が免除されるわけではありません。
保管義務はあくまで法定の健診項目に限られるところも踏まえて、やはり制度の趣旨を理解してもらうように納得してもらうことが重要にはなります。
安全衛生推進者制度についての詳細はこちらからも確認することができます。
令和5年8月16日
先月、令和5年度の最低賃金の目安額が発表され、全国加重平均が1,002円となり、政府が目標に掲げていた1,000円を超えました。引上げ目安額は41円となり、目安額制度が始まって以来の最高額となりました。
東京都の引き上げ額は41円とされ、目安額通りにいけば令和5年度の地域別最低賃金は1,113円となります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34458.html
最低賃金制度はいわゆる強行法規とされており、最低賃金を下回る賃金はたとえ労使で合意していたとしても無効とされます。
例外的に、一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、特定の労働者については、会社が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金を減額する特例が認められています。
減額特例の対象として認められているのは、最低賃金法第7条で次の労働者とされます。
実務的な相談という点で多いのは④で、とくに夜勤の守衛業務などに代表される断続的労働に従事するケースです。
「断続的労働」は、常態として業務が間欠的に行われるもので、実作業時間と手待ち時間が交互に繰り返される労働を云います。
本来は業務が継続的に行われているにもかかわらず、恣意的に実作業時間と手待ち時間を繰り返すようにしている場合は認められません。加えて、手待ち時間が実作業時間よりも長いことが許可条件とされます。
減額特例の許可申請に当たっては、所定の申請書に実際の断続的労働の詳細を記載した書類を労働基準監督署へ添付します。
労基署は、申請された対象労働者へのヒアリング等を行ったうえで減額特例の許可を判断します。
減額特例が認められた場合には、最低賃金を下回る賃金を設定することができるわけですが、最賃法第7条の対象者ごとに減額率の上限が設定されています。
実際の減額率が決定される計算方法は、実作業時間と手待ち時間の比率によって変わってくることになります。
詳細については、下記、東京労働局のHP(PDF)に掲載されています。
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-oudoukyoku/jirei_toukei/pamphlet_leaflet/chingin_kanairoudou.html
令和5年7月18日
働き方改革関連法が公布されて以降、長時間労働削減の旗印のもと、運用が厳格化されたといわれるのが労使協定の「過半数代表労働者」の取扱いについてです。
過半数代表者の選任ルールそのものは、以前より変更はなく以下の条件を満たす者とされています。
とりわけ、実務的に問題になるのが「2.締結する労使協定を明らかにしたうえで投票や挙手などの民主的方法により選出された者であること」で、近年は選出プロセスに欠陥があるケースが問題とされることがあります。
とくに改正労働者派遣法の同一労働同一賃金、いわゆる労使協定方式が導入されたときにしばしば指摘されたところでした。
典型的事例のひとつが厚労省HPの「労使協定方式に関するQ&A【第3集】 」に掲載されています。
【問1-9】
労使協定を締結する過半数代表者の選出の手続きにおいて、ある労働者を過半数代表者として選出することに賛成するか否かについて、派遣元事業主が全労働者に確認することとなった。その確認方法として、派遣労働者を含む全ての労働者に対してメールで通知し、メールに対する返信のない者を、メールの内容について賛成したものとみなす取扱いは認められるか。
また、同様の場合に、返信がない場合は賛成したものとみなす旨をメールに記載して いる場合は認められるか。
【答】
過半数代表者の選出には、労働者の過半数が選任を支持していることが明確になるような民主的な手続を経ることが必要である。最終的には個別の事例ごとに判断されるものであるが、一般的には、お尋ねのような取扱いは、労働者の過半数が選任を支持していることが必ずしも明確にならないものと考えられる。例えば、返信がなかった労働者について、電話や訪問等により、直接意見を確認する等の措置を講じるべきである。
なお、イントラネット等を用いて、労働者の意思の確認を行う場合も同様である。
「最終的には個別の事案ごとに判断される」とあるものの、原則的には意思表示がなかった労働者に対して、個別確認することが求められるとされています。この考え方は、メール開封が確認できた場合でも同様であるとされています。(問1-10)
大企業においてこうした選出方法が試みられる背景には、過半数代表者に立候補する労働者が出にくい職場環境もあるようです。
会社からすれば、限られた期間で代表者選出を集約していかなければならないときに、個別の意思を確認しなければならないとなると実務的にハードルが高い解釈だと当時は思いました。
似たような相談として、「代表者選出にあたり事業場の過半数労働者の賛成を得てはいるが、一部の労働者に対して選出を行う旨の周知が行われていなかった場合、当該労使協定は有効になるのか」という質問を受けたことがあります。
これも同上Q&A集に参考になる部分が掲載されています。
【問1-11】
問1-9の方法において、意見の表明がない労働者を全労働者数から除き、残りの労働者の過半数の信任を得た労働者を過半数代表者とする取扱いは認められるか。
【答】
意見の表明のない者を含む全ての労働者の過半数の信任を得ていない労働者は、過半数代表者とは認められないものである。
結果的に過半数の賛成があったとしても、そもそも過半数代表者の「3.」の条件を満たせていないという見解のようです。
実務的に周知したか否かの証明は別として、たとえ意図的でなかったとしても代表者選出のプロセスに問題があると協定の効力そのものがなくなってしまいますので注意が必要です。
上記Q&A集はこちらから参照することができます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
令和5年6月19日
令和5年4月より、公的年金の「特例的繰下げみなし増額制度(以下、繰下げみなし増額制度)」が開始されています。
令和4年4月より、昭和27年4月2日以降に生まれた人は、国民年金と厚生年金の繰下げ可能年齢が70歳から75歳に延長されました。最長10年間繰下げ延長ができるようになったことで増額率が最大で84%になったわけですが、新たに時効消滅の課題が生まれました。
年金の時効は5年とされているため、例えば71歳時点で繰下げ請求をせずに受給権が発生した65歳に遡って請求した場合、遡って受けられるのは66歳以降の年金となります。
1年分の年金を受けられない問題が生じることになります。
繰下げみなし増額制度を希望した場合は、上記ケースでいえば66歳時の増額率(8.4%)を加算した年金額を遡及して受給することができる制度です。
時効消滅による損失を緩和する意味では、ある程度目的が果たされるといえますが、完全に解消されるわけでもありません。
繰下げみなし増額制度は、名前からすると「年金の繰下げ」をしているかのように見えますが、遡及して年金を請求するため法律的には通常の年金請求―いわゆる本来請求―の扱いとなります。
増額されるなら繰下げ申出でも、本来請求でも同じように思われますが、異なるケースが生じることがあります。
年金の繰下げ制度にはいくつか条件があり、そのひとつに「少なくとも66歳までは行えない」というものがあります。したがって、増額率は最低でも8.4%(0.7%×12か月)となります。
しかし、本来請求であれば受給権が発生した時点(通常は65歳)になれば請求することができます。
その結果、繰下げみなし増額制度を請求することで65歳と6か月に遡って受給する、といったようなことが成立しうることになり、増額率が8.4%を下回るケースが発生することになります。
この場合は、繰下げみなし増額率が反映されているのでまだ良いのですが、極端なケースではその恩恵を受けられないことが理論上起こる場合があります。
上記のように繰下げの申し出は66歳にならないと行えないため、例えば65歳と6か月時点で障害年金や遺族年金などの他の年金受給権が発生した場合には、繰り下げ申出ができません。
繰下げみなし増額制度は、あくまで通常の繰下げ申出ができる人が、そのいずれかを選択するための制度になるため、この場合は増額されない年金額を5年分遡及して受けることになり、時効消滅分の年金は支給されないことになります。
このように、繰下げみなし増額制度は時効の問題や他の年金の受給状況が絡み合うケースが生じますので、制度利用の際には事前に記録確認等をしながら検討すると良いでしょう。
繰下げみなし増額制度の概要は日本年金機構のホームページにも掲載されています。
令和5年5月8日
1年単位の変形労働時間制は、季節ごとの業務繁閑差が多い業種や、1日の労働時間は短いけれども休日出勤が多い職種などでしばしば導入されます。
導入にあたっては労使協定を締結して、所轄労働基準監督署に届け出ることが条件となっていますが、複数の事業所がある企業の場合には、事業所ごとの所轄労基署に提出する必要がありました。
36協定のような本社で一括して届け出する制度がなかったのですが、今年の2月27日より、一定の条件を満たした1年単位の変形労働時間制については本社一括で届け出ることが認められるようになっています。
「一定の条件を満たした」とは、次の内容を指します。
このうち2.は、対象期間や協定の起算日、対象期間中の平均労働時間数などを指します。事業場の名称者所在地、労働者数や労働者代表、協定締結日など必然的に異なる内容については同一でなくてもよいとされています。
シフト制などを導入している会社では、届出時点で年間カレンダーを固められないケースがあり、その場合には最初の月のカレンダーを添付して、次月以降のカレンダーを法定期限までに追加提出することが認められています。
この場合に本社一括で届出できる事業場は、本社で使用しているカレンダーと同一のカレンダーを使用している事業場のみとなります。
1年単位の変形労働時間制については、残業時間の算出方法など実務上複雑な運用になるところがあります。1か月の時間外労働の上限も42時間(年間の上限は320時間)となります。とくに固定残業手当を導入している企業では、みなし労働時間に整合性を持たせることも必要になってくるでしょう。
以前、1年単位の変形労働時間制と専門業務型裁量労働制を導入している企業から「1年単位の変形労働時間制の対象者に専門業務型裁量労働制を併用することができるか」というご質問を受けたことがあります。
直感的に併用できないと予測したものの、明確な根拠規定が浮かばなかったため、本当にそうなのかと再確認したことがありました。
通達レベルでも併用不可を明記したものは調べた限りでは見当たりませんでしたが、制度の趣旨を説明した下記の通達を組み合わせると、やはり実質的に同一人に併用することはできないように解されます。
【1年単位の変形労働時間制・労働時間の特定②】
改正法(1年単位の変形労働時間制)は、対象期間中の労働日及び労働日ごとの労働時間をより的確に特定し、時間外・休日労働を減少させることができるよう、対象期間を1か月以上の期間ごとに区分して労働日及び労働日ごとの労働時間を特定することができることとしたものであること。
このような趣旨に照らして当然のことながら、従来と同様特定された労働日及び労働日ごとの労働時間は変更することができないものであること。(後略)
―平成11.1.29基発45号―
【専門業務型裁量労働制・専門業務型裁量労働制の対象業務の拡大② 3その他】
もとより専門業務型裁量労働制の対象業務としては、業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をすることが困難なものとして規定する業務に限って導入することができるものであることから、(後略)
―平成14.2.13基発0213002号―
1年単位の変形労働時間制の一括届出に関する詳しい情報は、厚労省のリーフレットから確認することができます。
令和5年4月18日
労災保険で、建設業など現場で工期が定められる事業のことを「有期事業」といいます。工事のごとに労災保険の加入手続きを行っていたのでは煩雑になるため、一定の有期事業については届出を一括することが認められおり、「有期事業の一括」といいます。
一括できる有期事業の要件は、建設業の場合次のように定められています。
以前はこれらの条件に加えて、隣接地域における有期事業であることの条件がありましたが、平成31年4月1日以降は地域要件がなくなり、全国的に一括することができるようになっています。
あわせて、かつては一括有期事業の対象となる工事を月ごとに届け出る(一括有期事業開始届)ことになっていましたが、現在はこちらの届出もなくなっています。
有期事業に関してときどきお問い合わせがあるのが、概算保険料と請負金額の要件ついてです。
例えば受注の段階では上記の金額を超えていなかったので、一括有期事業として報告したものの、設計変更等の理由で保険料額、請負金額が超過していた場合はどうなるのかといった相談です。
有期事業の一括は、あくまで概算ベースで判断されるものですので、改めて単独有期事業として届け出る必要はありません。
逆のケースの場合も同様で、工事開始時点で一括の基準を超えていたので単独有期事業として届出したものの、工期の短縮等で保険料額、請負金額が一括要件に該当するようになった場合でも、実務上はそのまま単独有期事業で申告することになります。
有期事業の一括は労働保険徴収法の第7条に記載されており、「二以上の事業が次の要件に該当する場合には、この法律の規定の適用については、その全部を一の事業とみなす。」とあるので、上記の取扱いにはちょっと引っ掛かるところもあります。
ともあれ、建設業の場合は業種が細分化されているところもあるので、工事の内容を詳しく確認したうえで申告を進めると良いでしょう。
建設業特有の労災保険用語の意味はこちらから確認できます。
令和5年3月14日
かつての出産育児一時金の請求は、出産費用について本人がいったん窓口で支払った後、給付申請をしていました。高額な出産費用を一時的とはいえ立て替えしなければならず、計画的に準備しておかなければなりませんでした。
平成21年10月1日から医療機関等へ一時金相当額が直接支給される「直接支払制度」が導入されたことで、本人の窓口負担が出産費用との差額で済むようになりました。
現在は大半の医療機関で直接支払制度が導入されているため、本人の資金繰り問題はほぼ解決されている状況です。
もっとも、今まで本人が立て替え準備していたものを医療機関が肩代わりしている状況になったため、直接支払制度の利用による負担が大きいと考えられる小規模の医療機関等に対して「受取代理制度」が設けられています。
直接支払制度も、受取代理制度も、本人や医療機関の経済的負担や手続き負担を軽減する目的で導入されているものです。
しかし、出産費用が出産育児一時金の額より少ない場合には差額分を給付申請することになります。具体的には「出産育児一時金内払金支払依頼書」と「出産育児一時金差額申請書」といいます。
出産費用が出産育児一時金の額より少なくなるケースは実際にはほとんどないため、上記の手続きが発生することはありませんでした。
4月より出産育児一時金の給付額が42万円から50万円に増額されるものの、これも出産費用の高騰を受けて後追い的になされる意味合いが強いため、改正によって内払金の差額請求が増えることはないように思われます。
ただし、下記の厚労省の統計によると差額ベット代等を除いた数値では給付額が上回るケースや地域もあるようなので出産者本人へのアナウンスなどフォロー体制を見直すと良いでしょう。
第136回社会保障審議会医療保険部会 資料(資料1-2 出産育児一時金について)
令和5年2月8日
働き方改革がもたらした派生的な影響のひとつに、副業・兼業やフリーランス、テレワークなどあらたな就業形態を生み出したことがあげられます。
その一方で、最近は従来から存在する伝統的な働き方に再注目する企業も少しずつ増えているように見受けられます。
先日、インターンシップ制度を検討している企業から導入についてご相談がありました。インターンシップ制度を導入するにあたっては、就労が「実習」なのか、「労働」なのかを判断する必要があります。
インターンシップの労働者性については行政通達があります。長い文章ですが、全文を掲載します。(平成9年9月18日基発第636号)
「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる。なお、この判断にあたっては、昭和57年2月19日付け基発第121号『商船大学及び商船専門学校の実習生について(一般に実習の委託を受けた事業場との関係において原則として労働者ではないとするもの)』も参照されたい。」
箇条書きで要約すると、次の条件を満たすインターンは「労働」には当たらないとしています。
下線部分の通達も判断に当たっては参考になります。この通達(基発第121号)は、基発第636号よりさらに長い文章なので掲載は省略しますが、上記箇条書きの内容について商船大学の実習生のケースを例に具体的に示しています。
インターン学生の就労が「実習」なのか「労働」なのかの判断は、一律に説明できるものではありません。例えば、教師や看護師など資格・免許の取得のための要件とされているがゆえに就労を行うのであれば「実習」に近くなるでしょう。
一方、企業が採用活動の一環として適性を見る目的で、大学などの教育機関とは無連携に、一定の期間、実際の企業活動に従事させる場合は、指揮命令要素が強くなるため「労働」にあたる可能性が高くなると思われます。
さらにインターンの学生が外国籍の場合、労働者性の判断に加えて在留資格の問題も重なってくるため、あわせて確認が必要です。
インターンシップ制度を導入するにあたっては、「実習」でいくのか「労働」とするのかを、学生とも認識を共有したうえで実施すると良いでしょう。
令和5年1月11日
明けましておめでとうございます。
昨年も事務所ブログをご覧いただきありがとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
さて、今年最初のブログテーマは、令和5年度の派遣労働者の同一労働同一賃金についてです。
派遣労働者の同一労働同一賃金は、賃金水準を満たす方法として「均等・均衡方式」か「労使協定方式」のいずれかを選択することになっていますが、
厚生労働省の統計調査によると約9割の企業が労使協定方式を採用しています。
労使協定方式は、毎年厚労省が発表する「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」の統計数値を基に協定を更新する必要があります。
この改正が令和2年4月1日から始まったため年度末が迫ってくると企業が更新作業に着手し始めて、お問い合わせも増えてきます。
令和5年度の「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」は、昨年8月に公開されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
統計数値は昨年度と比較すると多くの職種で上昇傾向にあるように見受けられます。
通勤手当の水準は昨年と同額(71円)となりましたが、退職金を基本給・賞与に含める、いわゆる「前払い方式」を採用した場合の水準は昨年の「6%」から「5%」と下がりました。
あわせて「労使協定方式に関するQ&A(第6集)」も公開されています。
そのなかで、実務的に注意を引くのが手当や賞与を一般賃金の水準と比較する際の算出方法についてです。
Q&A集では「問1-3」や「問2-2・3・4」あたりが参考になります。
とくに固定残業手当を協定対象派遣労働者に適用しているケースなどでは、集計作業に時間を要することがあります。
年度末間近で作業に追われないように年明けから少しずつ更新準備を進めておくと良いでしょう。