令和元年12月9日
11月1日、厚生労働省は、派遣労働者の同一労働同一賃金にかかる労使協定方式Q&Aの第2集を公表しました。
第2集のなかで実務的に注目されるのは2つあります。
ひとつは固定残業制度の取り扱いについてです。(問2-1)
概要を説明するより、そのままの問答を掲載します。
【問2-1】
固定残業代は、一般賃金と同等以上を確保する協定対象派遣労働者の賃金の対象としてよいか。
【答】
局長通達第1の2(2)のとおり、協定対象派遣労働者の賃金の対象に時間外、休日及び深夜の労働に係る手当等が含まれないことを踏まえ、固定残業代についても協定対象派遣労働者の賃金の対象とすることは適当ではない。
一方で、直近の事業年度において、実際の時間外労働等に係る手当を超えて支払われた固定残業代については、協定対象派遣労働者の賃金の対象とすることが可能であるが、労使で十分に議論した上で判断いただくことが望まれる。(後略)
下線部分が述べていることは、実際の時間外労働時間に相当する時間外手当を超える部分の固定残業手当については賃金の対象とすることができるということのようですが、実際の時間外労働は当然毎月変動するものなので、仮にこの内容を協定に盛り込むことにしたとしても、取り扱いが今一つ釈然としないところがあります。
もうひとつは、退職金についての取り扱いです。
退職金の取り扱いについては3つの選択肢から格差解消を図るとされています。
自社に退職手当制度がなければ「2」の方式となるわけですが、制度がある場合でも、退職金の原資の準備方法として中退共やDB・DC等を利用しているのであれば「3」の方式を選択することができます。もっとも「3」を選択する場合、掛け金が一般賃金の6%以上であることが必要になるため、それを下回る場合には「2」を選ぶことになります。
傾向として「1」は「2」「3」よりも高い水準になりがちなため、いわゆる無期フルタイム社員が派遣就業を行っている会社は、この選択をとるケースが多いと考えられます。(問4-10)
【問4―10】
退職金を支払っていない場合に、一般賃金の額と同等以上の額を確保するためには、どうすればよいか。
【答】退職金を支払っていない場合には、協定対象派遣労働者の賃金(通勤手当を除く。)の額が、一般基本給・賞与等の額に「一般基本給・賞与等に6%を乗じた額(1円未満は切り上げ)」を加えた額と同等以上であることが必要(例えば、一般基本給・賞与等が 1,000 円の場合は、協定対象派遣労働者の賃金の額が、「1,000 円+(1,000 円×6%)=1,060 円」と同等以上であることが必要)。
令和元年11月5日
派遣労働者の同一労働同一賃金を労使協定方式で進めていく場合に協定の内容整備が最も労力を割くところとなります。
あわせて対応が求められるのは関係者への情報提供や明示、契約の再締結などです。「関係者」とは主に派遣労働者、派遣先事業主となるわけですが、それぞれに求められる対応があります。
【関係者への情報提供:労働者派遣法第23条第5項】
派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、(中略)その他当該労働者派遣事業の業務に関しあらかじめ関係者に対して知らせることが適当であるものとして厚生労働省令で定める事項に関し情報の提供を行わなければならない。
この「厚生労働省令で定める事項」として次の項目が挙げられます。
① 労使協定を締結しているか否か
② 労使協定を締結している場合は、その対象となる派遣労働者の範囲及び有効期間 の終期
情報提供の方法としては、インターネットの方法を原則とするとされています。HPへの記載や厚生労働省の人材サービス総合サイトへの掲載が考えられます。
【派遣労働者への説明:労働者派遣法第31条の2第2項】
派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者から求めがあつたときは、第30条の3の規定により配慮すべきこととされている事項に関する決定をするに当たつて考慮した事項について、当該派遣労働者に説明しなければならない。
派遣労働者への説明は「雇入れ時」と「派遣時」の2時点でそれぞれ求められるものですが、いずれの時期においても新たに「労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期)」が加えられました。
【労働者派遣契約の締結:労働者派遣法第26条第1項】
労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)の当事者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない。(各号略)
現行の記載事項に加えて、新たに「派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度」と「労使協定の対象となる派遣労働者に限るか否かの別」が追加されました。
派遣労働者、派遣先事業主そして関係者へ労使協定方式を導入していることの説明義務が網羅されていることになります。
派遣労働者、派遣先事業主そして関係者が派遣会社を選定するときに、均衡均等法式なのか労使協定方式なのかは契約上重要な要素となるだろうという考え方が透けて見えてくる内容でもあります。
令和元年10月15日
派遣労働者の同一労働同一賃金の連載が続いています。企業の労務管理にとってみれば、今年はそれだけ関心の高いテーマともいえるわけですが、特に労使協定方式の導入方法について関心が高いように感じています。
労使協定方式を導入する場合の一番の難所は、賃金表をどう作成すればいいのか、すでに賃金表が自社に存在する場合には、統計数値とどのように整合性を図ればよいのかという課題に行き当たります。
労使協定方式の採用条件として「一般賃金と同額以上」にする必要があるわけですが、この一般賃金と同額以上というのは統計数値の勤続年数と自社の勤続年数が完全にリンクすることを求めるものではなく、派遣労働者の職務の内容や難易度が一般労働者の勤続ベースに当てはめたときに何年目になるのかを検証することが悩みどころといえそうです。
厚生労働省の「労使協定方式Q&A」においても次のような内容が記載されています。(問2-8)
【Q】能力・経験調整指数について、例えば、勤続が5年目の協定対象派遣労働者については、必ず「5年」の指数を使用しないといけないのか。
【A】能力・経験調整指数の年数は、派遣労働者の勤続年数を示すものではないため、ご指摘の場合に、必ず「5年」にしなければならないものではない。例えば、職務給の場合には、派遣労働者が従事する業務の内容、難易度等が、一般の労働者の勤続何年目に相当するかを労使で判断いただくこととなる。(後略)
また賞与や手当を支給している場合には、以下のいずれかの方法で算出することになります。(問2-10)
① 直近の事業年度において協定対象派遣労働者に支給された額の平均額
② 協定対象派遣労働者に支給される見込み額の平均額
③ 標準的な協定対象派遣労働者に支給される額
①を採用した場合は賞与・手当等を支給していない協定対象派遣労働者を含めての平均額となるため、賞与や手当を支給していない協定対象派遣労働者の比率が高いと賃金表の数値を引き下げることになるので注意が必要です。
このように労使協定方式では協定の整備に労力を奪われがちですが、派遣先や派遣労働者との対応についても法改正に応じた準備が求められます。あわせて滞りがないようにしたいところです。
令和元年9月11日
人事の担当者であれば、労使協定方式による派遣労働者の同一労働・同一賃金を進めることを決定したときに、湧いてくる問題を解決する苦悩に向き合っていることでしょう。
ひとつは、労使協定の締結方法です。労使協定方式は労働者派遣法の定めによるものながら、締結プロセスについては労働基準法で定める内容にに準じます。従業員代表の選出は、「①労働基準法第41条2項に定める管理監督者ではなく」、「②協定を締結するための選出であることを明らかにしたうえで民主的手続によるもの」とされています。
同一労働同一賃金ガイドラインで定める条件を満たさない労使協定は無効とされ、自動的に均等均衡方式扱いになることが示されました。
労使協定方式の手続きそのものは派遣元会社の中で完結することですが、そのプロセスが不適切である場合に均等均衡方式に切り替わってしまうことをふまえると、取引先である派遣先会社にとっても協定の概要を把握する必要があるでしょう。
ふたつは、労使協定方式を採用した場合、来年4月以降の派遣事業報告書に労使協定を添付することになる点です。遅くとも来年3月までには協定を締結するタイムスケジュールとなります。なおこの労使協定は労働基準監督への届出義務はなく、施工日前に締結したとしても効力が発生するのは来年4月1日以降となります。
三つ目は、有効期間の問題です。協定の中には有効期間を定めることになっており、その期間は2年以内とされています。実務上の煩雑さを考慮すると2年間としたいところですが、賃金の決定方式は統計数値(賃金構造基本統計調査等)を参照します。統計数値は毎年発表されるため、協定の有効期間中に発表された一般賃金額が派遣労働者の賃金を超えてしまった場合には、協定を再締結しなければなりません。1年間とするのが妥当と考えられます。
労使協定方式の目玉は何といっても賃金テーブルの作成にかかっているわけですが、なかでも頭を悩ますが退職金です。
現状ガイドラインでは労使協定方式を導入した場合、派遣元会社に退職金制度なかったとしても派遣労働者に退職金制度を設定しなければなりません。
派遣会社としては、派遣労働者にだけ退職金を支払うことに違和感を感じるかもしれませんが昇給UPで対応するなど実現可能な選択肢を模索することになります。
その他労使協定方式に関するQ&A集が厚生労働省にアップされています。あわせてご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
令和元年8月16日
来春の同一労働同一賃金改正に向けて、各企業が対応のギアを上げてきているようです。
拠り所となるのは、厚生労働省発表の「同一労働同一賃金ガイドライン」(正式名称は「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」)ですが、定義や内容の解釈について疑義を感じている会社が多いように感じています。
大きく分けると、同一労働同一賃金は「短時間労働者・有期雇用労働者(いわゆるパート、アルバイト、契約社員)」と、「派遣労働者」に整理されます。
前者は、「パートタイム・有期雇用労働法」の改正に基づいており、後者は「労働者派遣法」の改正が行われることによって実施されます。
パートタイム・有期雇用労働法の施行について、中小企業には1年間の猶予(2021年4月1日)がありますが、労働者派遣法の改正は、企業規模を問わず2020年4月1日より一斉施行となります。
直雇用する非正規社員と労働者派遣に従事している社員が在籍する会社では、それぞれの改正法やガイドラインに沿った対応が必要なわけですが、施工期日のズレを考慮すると派遣労働者の同一労働同一賃金から着手するということになりそうです。
派遣労働者といった場合、派遣先の就業が決まるごとに派遣元会社と契約を締結するかたち(昔で言うところの登録型派遣、一般派遣)で就業するパターンと派遣元会社と無期雇用契約をしている社員が派遣先に常駐して就業する就業形態であるものの、法令上の必要性より派遣業の許可を取得している(昔で言うところの特定派遣)パターンがあります。
今回の改正法やガイドラインでは、適用される「派遣労働者」について、現時点では限定する条件や定義を設けていないため、いずれの派遣労働者も対象になるということになります。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者の均衡や均等を図るのが同一労働同一賃金の趣旨だとするなら、派遣元会社で「無期雇用フルタイム」で雇用されている「派遣労働者」が、改正の対象になるというのは、個人的には違和感を感じるところもあります。
いずれにしても来年4月までに派遣労働者の同一労働同一賃金の段取りを進めていかなければならないわけですが、具体的スキームとして「均等・均衡方式」と「労使協定方式」のどちらを採用するかという課題があります。
現状としては労使協定方式を採用する派遣会社が多いようですが、労使協定方式の運用についても取扱いを詳細に把握しておくべき点がいくつかあります。
厚生労働省のサイトにあらたに労使協定方式にかかる諸情報がアップされましたが、実務上注目したい内容について、次回採り上げたいと思います。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
令和元年7月16日
社会保険の算定基礎届の手続が真っ盛りです。
近年、複数の事業所から報酬をもらうことが多く、社会保険の世界では「二以上勤務者」の手続といったりします。
従来は経営者が複数の会社より役員報酬をもらう場合ぐらいしか該当しませんでしたが、今後は副業や兼業による二以上勤務者が増えてくることによって、管理・手続は複雑になってくる可能性もあります。
二以上勤務者の取扱いのなかで、通常のケースと異なる考え方のひとつに、報酬が改定したときの手続があります。
専門的には「月額変更届」といい、略して「月変(げっぺん)」といったりします。
社会保険料は、標準報酬月額と呼ばれる等級を毎年7月に決定して、一年間変わることがありません。
しかし、年度の途中で基本給などの固定給与が大きく変動することによって現在の等級よりも大きく変更する場合には、改定を行うこととされています。
これが「月額変更届(月変)」です。
いくつかある条件のひとつに「固定的給与が変更すること」というものがあります。
固定的給与とは、毎月同じ金額が支給される基本給や諸手当をさします。時間外手当(残業代)のように毎月変動する手当は含まれません。
別の条件に「従前の等級と比較して2等級以上変動していること」というものもあります。
これらの取扱いが二以上勤務者の場合、ちょっと特殊になります。
まず、固定的給与の変更はひとつの事業所において変更があった場合でも該当します。
また、2等級以上の変動については、固定的給与の変更があった事業所から受ける報酬の平均が従前の等級と平均して2等級以上変動しているかで判断されます。
たとえば、次のように二箇所から報酬を受けている被保険者がいるとします。
・A事業所:役員報酬40万円
・B事業所:役員報酬20万円
A、B両事業所の合計報酬は60万円となり、標準報酬でいうと59万円(健康保険33等級)となります。
この被保険者が、A事業所の役員報酬を35万円に下げたとします。
A、B両事業所の合計報酬は55万円となり、標準報酬でいうと56万円(健康保険32等級)となります。
1等級しか変動していないので月変にはならないと思えそうですが、二以上被保険者の場合は異なります。
繰り返しになりますが、2等級以上の変動については、固定的給与の変更があった事業所から受ける報酬の平均が従前の等級と平均して2等級以上変動しているかで判断されます。
つまり、A事業所の従前の役員報酬40万と変更後の35万円を比較して2等級以上変動があるかどうかで判断されます。
従前の役員報酬:40万円は標準報酬でいうと41万円(健康保険27等級)、35万円は標準報酬でいうと36万円(健康保険25等級)となり、月変の対象になります。
月変後の標準報酬等級は、A・B両事業所からうける役員報酬の合計額で改定され、それぞれの事業所から受ける役員報酬によって社会保険料が按分されます。
二以上勤務者の月変の場合、基準となる標準報酬と改定後の社会保険料を決定する際の標準報酬の定義は別に考えるというのが特徴といえます。
グループ会社だったり、関連会社で双方の報酬が確認できるような環境であれば、それほど困ることはないと思いますが、全く関係性がない会社間で二以上被保険者になっている人のケースでは、報酬の改定時期を予測することが難しいので、年金事務所からの通知を見落とさないようにすることが大事です。
令和元年6月10日
4月18日、日本とスロバキアの間で社会保障協定が締結され、7月1日より協定が発効されます。
社会保障協定の目的は2つあります。
日本が初めて社会保障協定を締結したのはドイツ(平成12年2月)でした。それ以前、海外派遣などの理由で日本を出国する場合、日本と赴任国で保険料を二重に負担するという問題がありました。
また、将来、年金を受給するためには各国でさだめる加入期間を満たす必要があり、本国あるいは赴任国単独では必要期間を満たせず、受給権に結びつかないケースも存在していました。
社会保障協定には、この「保険料の二重支い防止」と「年金加入期間の通算措置」をはかる狙いがあります。
現在(2019年7月)時点で、日本が社会保障協定を締結しているのは、下記の国です。
ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ(※)、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア
※チェコは2018年8月に現行協定の一部改正
協定未発効ながら署名済み国として、イタリア、中国、スウェーデンがあります。
国際交流の流れは活発化していくことになるので、協定対象国は今後も増えていくものと思われます。
社会保障協定の締結国に赴任することになった場合、本国と相手国のどちらの制度に加入するのかという問題があります。
日本の規定では赴任期間が原則5年以内であれば日本で加入し続け、5年を超える場合は相手国の制度に加入することになります。
社会保障協定は、相手国ごとに協定を締結してきている歴史的経緯があるため、協定国ごとに内容が異なっていることにも注意が必要です。
その多くは、二重加入防止と年金加入期間の通算措置を盛り込んだ内容になっていますが、二重加入防止のみ対象となり、年金加入期間の通算措置にまで踏み込んでいない協定国もあります。(イギリス、韓国)
イギリスや韓国で海外派遣される場合には、保険料の二重負担は解消されるものの、年金の受給については、それぞれの国で必要な期間を満たす必要があることになります。
また海外派遣をすることで厚生年金の加入期間が短くなると、期間通算ができたとしても、将来の日本での年金額が、その分少なくなるという問題もあります。
こうした問題を解消するために「厚生年金保険特例加入被保険者資格取得申出書」という制度があります。本来、協定相手国での加入となる人が、特例的に日本での厚生年金保険に加入する制度です。
年金期間の通算は加給年金などにも影響を及ぼす要素があり、両国間での期間の把握が求められます。
令和元年5月14日
厚生年金の上乗せ年金として厚生年金基金(以下、基金)があります。昭和41年(1966年)に発足しました。
厚生年金に加入している会社がすべて基金に加入しているというわけではなく、加入している企業とそうでないケースがあります。
基金に加入していたことがある場合、将来年金を受け取るときには国(厚生年金)とは別に基金の請求手続をしなければなりません。
基金の請求についてよくある問い合わせとして、次のような質問を受けます。
1.については、まずは勤務していた会社に問い合わてみるのがお勧めです。「ねんきん定期便」や年金事務所で記録確認をすることによって発見する方法もあります。
2.については、基金の加入していた期間によって請求先が変わります。一般的には10年以上加入していれば勤務先が加入していた基金が請求先となり、10年未満であれば「企業年金連合会」へ請求します。※厳密には基金ごとに定める規約によります。
企業年金連合会は、昔は「厚生年金基金連合会」と呼ばれていたところ、平成17年に現名称に変更されました。厚生年金基金の全国組織的な機関といえます。
基金は、国(厚生年金)から委託をうけて支給する「代行部分」と基金独自で上乗せ支給する「加算部分」で構成されています。「自分は基金に加入している会社に勤めていたが退職したときに一時金をもらったので基金はない」という声を聞くことがあります。この一時金は「加算部分」の原資に対する給付であり、「代行部分」についての年金が残っているので、やはり請求が必要です。
かつて、厚生年金基金は、最盛期に、全国で、1800基金以上存在していました。バブル崩壊後、低金利時代の長期化で基金が抱える債務が増え続けて、平成に入り急減します。
平成25年に厚生年金保険法が改正され、新設基金が認められなくなりました。加えて時限付の「特例解散制度」ができたことによって基金が解散しやすい環境が生まれ、この5年間で基金の解散ラッシュが進みます。
結果、現存基金は8基金となりました。
解散した厚生年金基金に加入していた場合でも年金の対象になります。解散した時期が平成26年3月以前であれば企業年金連合会に記録が移管されています。平成26年4月以降の場合は代行部分については国(厚生年金)に返還されているので基金の請求がなくなるわけですが、解散時に基金に残余財産があった場合は注意です。
解散時、基金より将来年金で受け取るか、一時金で受け取るかの選択をするのが通例ですが、年金受給を選んだ場合、将来通算企業年金として連合会に請求することになります。
平成31年4月4日
仕事中にケガをしたときに無償で治療や所得補償が受けられるというのは、よく知られています。これは労働者災害補償保険法(労災保険法)で定められています。
この労災保険法は、労働基準法から派生したかたちで作られた歴史をもちます。労働基準法には災害補償(第8章)という規定があり、業務上の負傷・疾病については、会社が、労働者に、治療や休業した場合の所得補償等を行う義務を課しています。
しかしながら、同章内に「他の法律との関係(第84条)」という規定があります。
【労働基準法第84条】
本来、仕事中のケガや病気については会社が補償義務を負うものです。しかし、事故等の大規模災害が発生した場合、会社が単独で補償を行うことが困難となるケースがでてきます。それを国全体でカヴァーしていこうというのが労災保険の考え方となります。
労災保険(雇用保険とあわせて労働保険)が選択権のない強制加入となっており、なおかつ、労災保険料が全額会社負担になっているのは、以上のような理由からですが、例外的に強制加入にならない事業が一部あります。暫定任意適用事業とよばれる業種です。
【労災保険の暫定任意適用事業】
一見して家族経営的な一次産業がイメージされます。強制加入ではありませんが、希望すれば加入することもできます。ここで、分けて考える必要があるのは、労災保険に加入していないからといっても、労働基準法の災害補償義務を免れるものではないという点です。
農業や林業、水産業の労災保険料率は他のホワイトカラーの業種より高く設定されています。それだけ労災リスクが高いと国が判断していることになります。さらに小規模事業場であれば、自力で災害補償義務を負うことも、より非現実的な気がします。実際に業務災害が発生したときに、他の補償で補填できなければ、任意加入するということになるでしょうか。
実務の場面で、このようなケースに遭遇することは、正直なところ稀ではあると思いますが、災害補償規定と労災保険制度の関係を整理するには格好の事例と感じます。
なお、労働基準法の災害補償義務は、あくまで「業務上」の負傷・疾病についてのみ課したものであり、労災保険法で補償されている通勤災害は対象とはなりません。
平成31年3月12日
10月より消費税率の引き上げにともない、年金生活者支援給付金制度が始まります。すでに事前送付用の年金請求書には年金生活者支援給付金の請求書も同封されており、問い合わせに対応されている方もおられることと思います。
年金生活者支援給付金は、もともとは受給資格期間が短縮(25年から10年)されることによる低年金化に対応するパッケージとして消費税増税のタイミングに導入される予定でした。受給資格期間の短縮措置が先行して行われたため、実施時期がずれることになりました。
給付金は全額国庫負担による福祉的給付として位置づけられており、年金制度とは別物ではありますが、支給要件に年金給付額が関係していることや振込みが年金と同時(偶数月の15日)に行われることから親和性が高いといえます。
給付金は4種類。合計支給対象者数は約1,000万人います。
給付金を受けるためには、年金請求書に同封されている「年金生活者支援給付金請求書」を提出して、条件を満たしているか審査を受ける必要があります。すでに年金を受給している人には氏名等が印字されたターンアラウンド用の請求書が9月ごろに届く予定です。
手続き上の注意点として、申請は4月以降からの受付となり、認定を受けた場合には10月分の年金から給付金が加算されます。本体の年金とは異なり、原則として届出された月の翌月分から支給が開始されるため、届出遅延がないようにすることが必要です。※法施行時と新規請求の際に限り特例措置があります。
給付金の支給条件は「前年」の年金「収入」やその他の「所得」で判断されます。(老齢年金と補足的老齢年金の給付金は住民税非課税世帯であることも条件になっています)
そのため年度の途中で65歳以上になるようなケースでは、次年度以降の給付金に影響が出てくる可能性もあります。
なお、65歳以上で老齢基礎年金を受給している人が対象者となるため、老齢基礎年金を繰上げ受給している人であっても給付金は65歳からの支給となり、繰下げ受給を予定している人は繰下げ年齢まで給付金も引き上げられることになります。給付金には繰下げ受給による割増制度はありません。
平成31年2月18日
4月より、いよいよ働き方改革の改正が順次実施されていきます。なかでも年次有給休暇(有給)の時季指定義務については、企業規模に関係なく一斉スタートということで対応に余念がないように思われます。
改正の内容について、いくつか照会があった点を中心に整理してみます。
まず時季指定義務が必要になるのは、年10日以上の有給が付与される労働者となります。単年度ベースで判断されるため、例えば単年度の付与日数が10日未満の労働者が、前年度の有給残日数とあわせて10日以上になったような場合には、時季指定義務の対象から外れます。
10日以上の有給が発生するのは正社員だけと思いがちですが、いわゆる比例付与のパートタイマー等でも勤続年数によって10日以上の付与日数に達するケースがあるため注意が必要です。
時季指定義務が発生する「基準日」は、10日以上の有給が発生する日となります。仮に4月1日入社の労働者が10月1日に10日の有給を付与された場合には、そこから1年間で5日の消化義務を果たすことになります。既存の労働者については、施行日(4月1日)以降に10日以上の有給が発生した時点が基準日となります。
5日間の有給消化がカウントできるのは1日又は半日単位のみとなるため、いわゆる時間単位の有給休暇制度を設けている企業は別途管理が必要となります。
時季指定義務や5日消化義務に違反すると法違反の対象となります。違反の適用は人数単位でとるとされているため、未消化労働者が多い事業場は対策が必要となるでしょう。
確実な消化を促す方法として計画年休制度を導入することが勧奨されています。計画年休制度は、毎年、あらかじめ、特定の時期に、有給を消化することを労使間で協定を締結することによって導入するシステムです。年間の就労スケジュールが年度初めに設定しやすい企業や業種がお勧めといえます。導入単位は企業単位、事業場単位、個人単位などアレンジも可能です。
また個別に発生する有給の日付を特定の日に統一する一斉付与制度を検討している企業もあるかもしれません。基準日が統一できるため、取得状況を管理しやすいメリットがあります。一方で、法定基準日よりも前倒しで付与していかなければならない点や、付与日が全員同じのため、入社日によって最初に有給が付与されるサイクルに有利不利が生じます。導入の目的をどこに見出すかによって選択が分かれるところです。
なお、改正を機に従来からある特別休暇制度を廃止したり、休日を減らたりして、有給消化に代替することは労働条件の不利益変更に当たることが通達で示されました。
厚生労働省の働き方改革特設サイトでは、他の改正事項についても詳しい内容を閲覧することができます。頻繁に更新もされています。定期的にチェックされてみてはいかがでしょうか。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
平成31年1月14日
厚生労働省が行う代表的な統計調査に「毎月勤労統計調査」と「賃金構造基本統計調査」があります。社会保険労務士にとっては受験勉強時代、必死に頭に覚え込ませた記憶がよみがえるフレーズでもあります。
当時、素朴に感じた疑問は「違いは何だろう?」というものでした。
厚生労働省のホームページでは次のような説明があります。
【毎月勤労統計調査】
【賃金構造基本統計調査】
まず、共通点に的を絞ると、いずれも統計法に基づく「基幹統計」であることが挙げられます。基幹統計とは、国勢統計、国民経済計算、その他国の行政機関が作成する統計のうち総務大臣が指定する特に重要な統計をいい、平成29年4月現在、基幹統計は56統計あります。他に比較的なじみのある調査でいえば、国勢調査や人口動態調査などがあります。
基幹統計調査に指定されると一般統計調査と比較して次のような制約が発生します。
つぎに、肝心の相違点に目を移すと、毎月勤労統計調査は当然ながら毎月調査であるのに対して、賃金構造基本統計調査は年1回(6月)であること。統計サイクルの違いにより、毎月勤労統計調査は事業所別、産業別の「平均」数値を表している統計が多く、また「前月」比の推移を探るのに適した資料として活用することができそうです。
賃金構造基本統計調査は、労働者個人単位の結果も出されており、性別や年齢、初任給、勤続年数などから労働条件の相場をアプローチしていく必要が生じた場合に、拠り所とする資料と位置付けられます。
両統計は労災保険制度や雇用保険制度における諸給付の基礎数値として活用もされています。
【毎月勤労統計調査】
【賃金構造基本統計調査】
より詳細に内容を把握したい場合には、下記のサイトであわせてご参照いただけます。