令和7年4月15日
4月から育児介護休業法が改正されて、連動するかたちで雇用保険の「出生後休業支援給付金」制度が開始されています。
出生時育児休業給付金または育児休業給付金に上乗せする形で給付される制度ですが、これによって出産直後の男性の育児休業について取得変容が起こることがあります。
男性には産前産後休業がないため、出産直後から育児休業を取得することになりますが、産後8週間については、出生時育児休業(産後パパ育休)か、育児休業かを選択して取得することができます。
出生時育児休業給付金、育児休業給付金、出生後休業支援給付金についてはいずれの休業であっても給付額は同じなので、判断基準に影響を及ぼすことはないでしょう。
判断基準が分かれるのは取得回数の問題です。出生時育児休業も育児休業も、それぞれ2回ずつ、最大で合計4回に分割して取得することができます。妻の産後休業期間中に育児休業を取得した場合には、残りは1回となります。子が1歳になるまでに取得できる回数をできるだけ温存しておきたいならば、出生時育児休業を取得する選択肢が考えられます。
ただし、出生時育児休業には取得できる日数制限(最大4週間・28日)があります。上限日数を超えて休業する場合には、結果的に育児休業も取得することになります。
また、出生時育児休業と育児休業とでは、休業期間中の就労に違いがあります。育児休業期間中は、臨時的・一時的なケースを除いて就労はできないことになっています。
一方、出生時育児休業期間中は、労使協定を締結したうえで、「労使が合意」すれば一定日数までは就労が可能とされています。休業期間中に働いてもらうことがありうるならば出生時育児休業を選択することになるでしょう。
出生時育児休業期間中の就労を認めるには、就業規則や労使協定に就労に関する内容を盛り込む必要があるため、一見すると休業取得者の権利であるかのように受け取られることがあります。
しかし、制度上の考え方としては、出生時育児休業を取得している就業希望者からの申し出に基づいて、会社と従業員の間で就業の内容について「合意」すれば就業が可能になる、と整理されます。
極端な言い方をすると就労の条件について労使が合意できなければ、休業期間中は就業できなくなります。
労働者からすると就労規定が存在するにもかかわらず働けないことに疑念を抱くかもしれませんので、制度上の運用を事前に説明する必要があります。
厚生労働省が公表している「社内様式」集をみると、この辺りの内容が理解しやすくなります。
出生時育児休業をとるか、育児休業をとるか。相違点をきめ細かく説明したうえで取得する休業を選んでもらう局面が増えそうです。
今改正の育児介護休業法の厚生労働省のひな形一式はこちらから参照できます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103533.html
令和7年3月17日
高額療養費は、1か月間の医療機関に支払った医療費の自己負担額が一定額を超えたときに、その差額が払い戻される制度です。
この一定額のことを「自己負担限度額」といいますが、年齢(70歳未満or以上)と収入(標準報酬月額)によって区分されています。
例えば70歳未満で標準報酬月額が30万円の場合の自己負担限度額は、次の計算で算出した額となります。
総医療費は窓口負担(通常3割)と保険給付(通常7割)の合計額をさします。仮に1か月の窓口負担額が9万円だった場合の自己負担限度額は、
となります。
この場合、9,570円が高額療養費として還付されます。
高額療養費を請求する場合、実際に還付されるのに2~3か月かかるため、入院等で、あらかじめ自己負担限度額を超過することが見込まれる場合には、「限度額適用認定証」を発行することによって、自己負担限度額を超える分については、保険者(協会けんぽや健康保険組合)と医療機関の間で精算してくれることになっていて、本人が還付請求する手間が省けるようになっています。
現在ではマイナンバーカードにマイナ保険証を登録している場合には、限度額適用認定証の発行手続き自体が不要になっていて、さらに手続きが簡略化できるようになりました。
加えて高額療養費には、「多数該当」と「世帯合算」というオプション機能があります。
多数該当とは、高額療養費として払い戻しを受けた月数が1年間(直近12ヵ月間)で3月以上あった場合に4月目から自己負担限度額がさらに引き下げられる仕組みです。
上記の70歳未満で標準報酬月額が30万円のケースで、多数該当になると自己負担限度額は「44,400円」となります。
簡単に行ってしまうと、4カ月連続で自己負担限度額を超過した場合、4か月目より高額療養費の還付額が増えることになります。
世帯合算とは、世帯で複数の家族が同じ月に医療機関で受診した場合や、同一人が複数の医療機関で受診した場合、一つの医療機関で入院と外来で受診した場合などには、自己負担額は世帯で合算することができ、その合算額が自己負担限度額を超えた場合は、超えた額が払い戻される仕組みです。
先日、高額療養費制度の見直しについて、今年度より自己負担限度額を引き上げる改正を見送る方針がだされましたが、そもそも実際に利用したことがない人にとっては、なじみの薄い制度だったように思われます。
その一方で、実際に該当している人達にとっては長期療養を支える保険給付だと切実に認識した人も少なからずいます。
まさに「知っている人だけが知っている」保険だったわけですが、制度の存在や仕組みを把握したうえで、改正の内容がその是非も含めて検討されていけばよいと思います。
制度の概要は、協会けんぽのサイトにも掲載されています。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3030/r150/#tasuugaitou
令和7年2月17日
4月より雇用保険の「出生後休業支援給付金」制度が始まります。
出生時育児休業給付金・育児休業給付金に上乗せする給付で、出産直後の共働き・共育てを支援することを目的としたものです。
出生後休業支援給付金は「手取100%」と銘打つとおり、(出生時)育児休業給付金の給付率67%に13%を上乗せして、合計で給付率80%で、税引き後の給与所得に匹敵する給付を担保しようとするのが狙いです。(雇用保険の給付は非課税です)
配偶者が育児休業を取得していること、給付の対象期間が産後休業期間(夫)・産休明け直後(妻)の期間であること、などが特徴です。配偶者が自営業者等で雇用保険の加入対象でない場合や配偶者がいない場合などは、配偶者の育児休業条件は必要ありません。
制度の趣旨はさほど難しくないのですが、実務的な手続きは厄介なところがあります。
この給付は、申請の際に配偶者の育児休業の状況(休業開始日)を把握したうえで申請することになります。
典型的なケースでは、産後休業中に夫が産後パパ育休を取得して、その後、妻が産休から育児休業を継続取得するパターンでしょう。
夫が勤務する会社の申請は、現行の出生時育児休業給付金と同時に行うことになるので良いのですが、注意が必要になりそうなのは妻が産休明けに申請するときです。
妻が勤務する会社が申請するときに、何らかの理由で夫側の出生時育児休業給付金が申請されていないと、出生後休業支援給付金(13%分)が不支給扱いになるようです。(67%分は支給扱い)
この場合、夫の申請が完了した時点で改めて出生後休業支援給付金のみ再申請することになるわけですが、当然ながら妻側の会社は夫側の会社の手続の進捗状況をリアルタイムで把握できません。
少人数であれば管理もできそうですが、大規模事業場で当該ケースが多発した場合の管理タスクは、結構骨が折れるような気がします。
本体(67%)分の支給が決定されているのであれば、夫側の支給が決定された時点で自動的に給付を決定してくれれば漏れが発生せずに良いのではないかと思われるのですが、制度の建付けとしては、あくまで別個の給付であり、本人申請によるものであるところから、再申請が必要だということのようです。
手続上の課題は他にもあるような予感がしますが、考え始めるとキリがなさそうな気がしてきましたので今月はこれにて終了にします。
制度の詳細はこちらのリーフレットからご確認いただけます。
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001374956.pdf
令和7年1月16日
4月より高年齢者雇用安定法が改正され、65歳までの雇用確保義務が完全実施されることを踏まえて、就業規則の定年規定ついてご相談を受ける機会が増えてきています。
今回の改正は、平成25年4月の改正高年齢者雇用安定法に由来しています。この時点で高年齢者雇用確保措置規定が始まりましたが、経過措置として老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められていました。
この経過措置が令和7年3月31日に終了します。
令和7年4月1日からは高年齢者雇用確保措置として 以下のいずれかの措置を講じる必要があります。
① 定年制の廃止
② 65歳までの定年の引き上げ
③ 希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入
そこで現在60歳定年の会社が、65歳定年に延長する改定を検討しているケースが多いようです。
対応自体に問題があるわけではないのですが、現時点ですでに経過措置による基準を設けていないケースでは、③の継続雇用制度で運用することも可能ではあります。
定年を延長する目的が法改正によるものではなく、人材確保等の観点から行うものであれば理にかなっているといえます。
ただし定年が延長されることで直接的には人件費が増加すると想定されます。定年再雇用後の労働条件や退職金規程の見直しにも波及する問題であることは認識しておいたほうが良いでしょう。
一方、希望者全員の65歳までの継続雇用制度での運用を維持した場合にも課題はあります。
通常、定年再雇用後は嘱託社員等の名目で契約社員に変更することがありますが、契約更新時における労働条件の変更や無期雇用転換権発生時における雇止めの問題が今回の改正法の趣旨と照らして整合性を維持し続けられるかが焦点になりそうです。
前者については、面接等により本人の希望をきめ細かくヒアリングしたうえで書面による更新締結で対応して、後者については当面有期特措法の第2種計画認定の併用を検討することになるでしょうか。
雇用保険の高年齢雇用継続給付の支給率も4月より減額されることを踏まえると、継続雇用制度を選択したとしても、65歳定年と比較して遜色ない運用が求められていくのかもしれません。
高年齢者雇用安定法と高年齢雇用継続給付の改正の詳細は、厚生労働省のホ-ムページにも公開されています。あわせてご参照ください。
https://jsite.mhlw.go.jp/saga-roudoukyoku/content/contents/001993907.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00043.html